略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
愛するバンド、ザ・スミスの解散にショックを受けた高校生4人組と過激な行動に出たレコード店従業員の一夜を描く愛すべき青春の1ページ。閉塞感を抱えた若者たちが若気の至りの行動から教訓を得て、少しだけ大人になる展開はお約束だが、同バンドの曲やインタビュー映像が登場人物の気持ちを代弁する構成がチャーミング。「モリッシー、若いわ~」と懐かしさが込み上げ、個人的にショックを受けたバンドの解散やミュージシャンの急死に思いを馳せてしまった。レコード店のインテリアやE・コルトレーンが演じる従業員のファッションにも80年バイブが漂い、グッときた。ヘビメタ専門ラジオ局DJ役のJ・マンガニエロがいい味出している。
自活が難しくなった老人を搾取しまくる悪女をロザムンド・パイクが快演し、まさに独壇場。観客の共感など不要とばかりに主人公マーラの計算高さや邪悪な人間性を晒しまくっていて、実に潔い! マーラがご老人の財産をむしり取るテクなど明かしていいのか心配になったほど。パイクの演技と存在感が圧倒的で演技派のP・ディンクレイジやC・メッシーナが目立たないとはいえ、シニカルでひねりの効いた脚本も素晴らしく、満足度が高い。B・スピアーズの成人後見人問題でも思ったが、自活可能か否かを医師や裁判所が勝手に決め、法廷後見人にケアを任せる制度は危うい。こんな法制度はない方がいいのでは?
ISISの蛮行によって地獄と化したモスルでSWAT部隊が激しい戦闘を繰り広げていたとは驚きだ。躊躇なく敵を殺害し、武器や紙幣など使えるものを死体から奪う姿はISISと変わらなく思えるが、その心情が大いに違うのが徐々にわかる。主人公はSWATに救われ、半ば強引に仲間入りさせられる新米警官で、観客も彼目線でSWAT隊員たちの思いや強さを汲み取り、心を寄せていく展開だ。次々と人命が奪われ、家族が崩壊する様子から伝わる戦争の現実が心底恐ろしい。鑑賞後に、ルッソ兄弟がプロデュースしたアメリカ映画と知った。スター起用でヒットを狙わず、徹底的にリアリティを追求できるのだからハリウッドは懐が深いな。
性別違和を感じる7歳のサシャと家族を追うドキュメンタリーで、最も心打たれたのは家族の絆。サシャを守るために猛然と戦う母親と子供の幸せを最優先する父親。姉は妹を守るために強くなりたいと語り、兄は妹を認めない馬鹿な学校と戦うと母を勇気づける。この家族がいれば、サシャは今後も荒波を超えていけると思わせる。肝心のサシャの信頼を得るのは難しかったと思うが、カメラは彼女の複雑な心理を巧みに映し出す。温かい家族に守られる一方で無理解な周囲に傷つけられていたサシャが小児精神科医にぽつりぽつりと思いを語りながら涙を流す場面には胸を締め付けられ、女の子として受け入れてくれる友だちと遊ぶ姿に胸を撫で下ろした。
ソ連軍が武器も兵士も足りない状況で侵攻するナチス・ドイツと必死に戦う。最前線に立たされるのは士官学校の若者たちで、国のためにと次々と命を散らしていくのが悲しい。12日間のうちに士官候補生3500人のうち2500人が戦死したという激戦を迫力たっぷりに再現するだけではなく、若者らしい友情や恋愛も絡ませて良質のエンタメ作に仕上げている。対戦車砲の名手サーシャとドイツの戦車の『T-34』を思わせる一騎打ち場面や、ソ連が開発した自走多連装ロケット砲も登場し、軍事関係に興味のある人はより楽しめそう。とはいえ、国の未来を背負う若者を死なせてはいけないと強く思わせる反戦ドラマと受け取った。