話題沸騰!『十一人の賊軍』何がそんなに面白いのか
山田孝之、仲野太賀主演、白石和彌監督の映画『十一人の賊軍』(公開中)が話題だ。幕末を舞台にした集団抗争時代劇である本作。「熱い」「凄まじい迫力」「155分があっという間」などの感想がSNSを飛び交っている。いったい何が面白いのかを考えてみたい(※一部ストーリーについて触れる部分があります)。(文:大山くまお)
新兵器を誇る官軍 VS わずか十数人の賊軍
『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる名脚本家・笠原和夫が、60年前に映画化を目論んで書き残したプロットを白石監督が入手。『孤狼の血』「極悪女王」でもタッグを組んだ脚本家・池上純哉と共に現代に蘇らせた。
戊辰戦争の戦火が拡大する最中、北陸の小藩・新発田(しばた)藩は究極の選択を迫られていた。勢いに勝る新政府軍に味方するか、旧幕府軍の奥羽越列藩同盟として最後まで戦うか。両者が鉢合わせしてしまえば、城下町が火の海になってしまう。
そこで家老の溝口内匠は一計を案じる。最底辺の罪人を集めた「賊軍」を結成して、官軍の進撃を食い止めようというのだ。旧幕府軍を城下から追い返す間だけ戦い、罪人たちは生き残れば無罪放免という約束である。かくして最新鋭の武器を誇る官軍相手に、わずか十数人の賊軍による血で血を洗う死闘が始まる。
さまざまなバックボーンを持つ多彩なキャスト
賊軍には個性溢れる面々が集められた。妻の敵討ちで武士を殺して死罪となった駕籠屋・政を山田、賊軍を率いる武闘派の藩士・鷲尾兵士郎を仲野が演じる。
そのほか、博徒・赤丹を尾上右近、女郎・なつを鞘師里保、花火師の息子・ノロを佐久本宝、僧侶・引導を千原せいじ、医者の息子・おろしやを岡山天音、百姓・三途を松浦祐也、色男・二枚目を一ノ瀬颯、巨漢の浪人・辻斬を小柳亮太、剣術家・爺っつぁんを本山力が演じている。それぞれの事情を抱えるバラバラの罪人たちが<生きる>という一つの目的を持ち、七転八倒しながら過酷な戦いに挑むことになる。
歌舞伎役者(尾上)、アイドル(鞘師)、お笑い芸人(千原)、元力士(小柳)などと多彩なバックボーンを持つ面々が集められているが、それぞれが掘り下げられることはないので、賊軍の顔と名前をある程度知っておいたほうが観やすいだろう。罪人は十人だが、なぜ『十一人の賊軍』なのかは映画のクライマックスで判明する。
賊軍を派遣する家老・溝口を演じ、本作のダークサイドを一手に引き受けたのは、『死刑にいたる病』でも白石監督と組んだ阿部サダヲ。政治工作のため、白洲に並べた人々の首を斬り落としていく場面は圧巻だ。
「集団抗争時代劇」アクションの凄まじさ
本作の魅力は一にも二にもアクションにある。集団と集団が激しくぶつかり合う醍醐味は、東映のお家芸の一つである「集団抗争時代劇」を引き継いだものだ。
集団抗争時代劇とは、1963年から数年の間に東映で制作された『十三人の刺客』『十一人の侍』などをはじめとする一連の時代劇を指す。特徴はリアリズムとハードアクション。ヒーローやスターは不在で、明確な善悪も描かれない。ひたすら組織と組織による対立と戦いが繰り広げられ、その中で多くの命が無慈悲に散っていく。
『十一人の賊軍』では、官軍と賊軍が泥まみれになって激しい攻防戦を行う。戦いのメインとなるのは、ワイヤーやCGを使わないリアリティーのあるチャンバラだ。直心影流の使い手を演じた仲野は、半年前から稽古を積んで初挑戦とは思えないほど見事な殺陣を披露している。また、殺陣技術の向上・発展と継承を目的とする東映剣会所属の本山による殺陣は圧巻の一言。そのカッコ良さが話題になっている。
刀で斬れば、指や腕が飛ぶ。矢が飛べば、肉に突き刺さる。大砲で撃たれれば、家屋も人の体も吹き飛んでバラバラになる。単なるチャンバラにとどまらない映像の迫力とリアリティーは、エミー賞を受賞した「SHOGUN 将軍」にも通じるものがある。見た目の派手さを追い求めるだけではない、痛くて重くて泥臭いハードアクションが155分の中にみっちり詰まっている。
笠原和夫と白石和彌が描こうとしたもの
巨大な組織の残酷さ、人間の情念の美しさを描き続けた名脚本家・笠原は、高度経済成長社会の中で勝つことだけを追い求める世の中に一矢報いるべく、本作の脚本を書き上げた。しかし、徹底的なバッドエンドのため脚本はボツになってしまう。バトンを引き継いだ白石監督は、笠原が考えたストーリーの面白さに突き動かされつつ、戦いの中で犠牲になっていく「名もなき者たち」「声なき者たち」の物語を作ろうと決意したという。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」というが、『十一人の賊軍』はタイトルのとおり「賊軍」にスポットを当てたものだ。一寸の虫にも五分の魂。負けていくもの、弱きもの、汚いもの、蔑まれるものにだって意地がある。「勝ち組?」知ったことかよ、という泥の中に吐かれる唾のような、人間の反逆精神に深く響く作品だ。
(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会