イスラエルでは超メジャー!コンペ作『迷子の警察音楽隊』の主演を直撃!
第20回東京国際映画祭
26日、イスラエルに招かれたエジプトの警察音楽隊が、迷子になってたどり着いた町で出会った人々と交流するたった一晩の出来事を描いた『迷子の警察音楽隊』。第20回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されており、来日した主演俳優サッソン・ガーベイに話を聞くことができた。
映画の中で、迷子になった警察音楽隊のエジプト人を演じているのは、エジプトの俳優ではなく、イスラエル全体で人口の約15%を占めるアラブ系イスラエル人の俳優たちだ。
彼らは家庭ではアラブ語を話し、仕事ではヘブライ語を話すバイリンガルで、警察音楽隊の団長であり無口で頑固なトゥフィークを抜群の存在感で演じたサッソン・ガーベイもそのひとり。1947年にイラクで生まれ、3歳のときに両親とともにイスラエルに移住したというサッソンは、イスラエルでは知らない人がいないほどの有名な俳優だ。「有名とはいっても、イスラエルは人口700万人くらいの小さい国ですよ(笑)」と謙遜していたが、ヘブライ語とアラビア語のほかに英語とフランス語にも堪能で、シルベスタ・スタローンの『ランボー3/怒りのアフガン』に出演するなど、海外でも活躍している。
本作は歴史的に対立が続くイスラエルとエジプトの人々の交流を描いているので、背景を説明しようとするとどうしても政治的な話に傾いてしまう。しかし、本作の魅力は、むしろそういった視点から離れたところにあるとサッソンは言う。
「この映画はイスラエルの田舎の町が舞台です。そこに住んでいる、中心部の都会からも、自分たちの夢からもちょっと離れてしまった人々の話だともいえます。エジプトの警察隊がイスラエルで迷子になっているわけですが、あの町に住むイスラエルの人々も、ある意味迷子になっている。人生に対して何かを見失っていて、自分たちは経験すべきことをしてないのではないか、何かやり残したことがあるのではないか、という思いを抱えている人たちなのです」。
そんなとき、エジプトから突然やってきた楽団員と出会う。道に迷って途方にくれる人と、人生に迷っている人が偶然出会い心を通わせる、たった一晩だけの出来事。サッソンいわく「まるで詩(ポエム)のような作品」で、ユーモアとペーソスが絶妙の按配(あんばい)で同居している。だからこそ、この映画は世界中で多くの人の心をつかみ、受け入れられているのだろう。
好きなシーンを聞くと「すべてのシーンが大切なのでどれかひとつを選べません」と困りながらも、一夜の宿を提供してくれた女性ディナとふたりでベンチに腰掛けて話をするシーンをあげてくれた。「ディナに“楽団で音楽を演奏するときはどんな気持ちなの?”と聞かれたトゥイークが、説明しようとしますが言葉が見つからずに、一瞬考え込んでしまい、ジェスチャーで指揮をする場面があります。私自身もアーティストとして、自分の仕事について聞かれたときに、自分の一番伝えたいことを表現する言葉が見つからないことが多々あります。まさにそのときのもどかしい気持ちと重なるのでとても思い入れが深いシーンですね」と答えてくれた。
映画のラストにトゥーフィクが歌うシーンのことを聞くと、その場で少しだけ歌ってくれたサッソン。残念ながら吹き替えになってしまったそうだが、口数が少ない頑固なトゥーフィクとは正反対、サービス精神旺盛で、お話上手で、ひとつひとつの質問に本当に丁寧に答えてくれる紳士だった。
『迷子の警察音楽隊』は12月中旬、シネカノン有楽町、川崎チネチッタほか全国順次公開
オフィシャルサイト maigo-band.jp
第20回東京国際映画祭は、六本木ヒルズと渋谷Bunkamuraをメーン会場に20日から28日まで開催される。
東京国際映画祭オフィシャルサイト tiff-jp.net