日本人は他人の目を気にするが理解はしない…行定勲監督の『パレード』に観客共感
第60回ベルリン国際映画祭
現地時間2月17日夜、第60回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で『パレード』の上映が行われ、行定勲監督が登壇、質疑応答した。映画のテーマから、細かなテクニックにまで及ぶ観客からの質問は、しっかりと的を射ており、作品が伝わっていることを感じさせるものだった。
気楽な若者同士の共同生活と見えたものが、最後には恐ろしいほどの関係の希薄さを露呈する本作、見終わった後、考えずにはいられない余韻を残す。上映後、拍手に包まれ登壇した行定監督を、待ちかねたように次々と質問が飛んだ。
パレードシーンなどない本作だが、タイトルは吉田修一の原作そのままだという。「タイトルについては僕も悩まされた。パレードには、足並みそろえてとか、にこやかにというイメージがあると思う。東京では、その列から外れた人は、前から後ろに並び直さなくてはいけない」とパレードを東京人の象徴として捉えたことを説明し、「原作の吉田修一も僕も九州の出身です。地方から東京に出ると、“東京の顔”ができる」と東京人の仮面について話し、「実際に東京にいると気づかない。僕は田舎があるのでバランスをとっていられるが、東京では逸脱すると奇異な目で見られる。日本人の特徴として列に並びたいということがある。他人の目を気にするが、他人を理解していない」と本作から立ち上る薄気味悪さを解説した。
その薄気味悪さを盛り上げているのが音楽だ。同じ曲を繰り返し、最後にはそのベースの音が効果的に響くことに感銘を受けたという観客に「同じ曲を使うことは最初から考えていた。40回位作り直してあの形になった」と苦労も明かした。
同部門には観客の投票によるパノラマ観客賞が設けられている。トレント・クーパー監督ケヴィン・スペイシー主演の『ファザー・オブ・インベンション』(原題)など、大作、話題作揃いのパノラマ部門の中にあっても健闘しそうな力作だ。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)