政府の圧力によって映画製作者が逮捕される事態に抗議!
第63回カンヌ国際映画祭
第63回カンヌ国際映画祭コンペティション部門作品『サーティファイド・コピー』(原題)のイラン出身アッバス・キアロスタミ監督が現地時間18日、公式会見の冒頭で2か月に渡ってイラン政府に拘束されているジャファル・パナヒ監督の解放を訴えると同時に、同様に政府の圧力によって映画製作が困難になっている同胞たちへの支援を呼び掛けた。
キアロスタミ監督は会見冒頭「この話題について話さなければ映画の話はできない」と異例のコメントを発表。キアロスタミ監督は「映画製作者が投獄されたという事実は本来、我慢できないことです。確かにパナヒ監督は政府の許可なく映画を作る傾向がありました。しかしそれは、彼だけの責任ではありません。映画作家にそうせざるを得ない状況を作った政府に責任があるのです」とイラン政府を非難した。
パナヒ監督は3月1日、自宅に家族といるところをイランの治安警察に逮捕された。パナヒ監督は、アフマディネジャド現大統領の反体制派で知られ、今回の逮捕もイラン政府は「反体制映画を製作していたため」と発表。しかし、パナヒ監督の息子はこれを否定。さらにイラン政府は、今後メディアに発言をすれば逮捕すると、家族に圧力をかけてきたという。
キアロスタミ監督は「もしイラン政府がパナヒ監督の釈放を拒絶し続けるのならば、その説明を求めます」とキッパリ。また会見場では、自身が今年3月にニューヨークタイムズ紙に発表したパナヒ逮捕に対する抗議文をコピーしたものを配布して、記者たちに支持を求めた。
その後、キアロスタミ監督は映画の話題に移ろうとしたが、記者からパナヒ監督に関する質問が続き、会見が一時混乱した。その中には「パナヒ監督がハンガーストライキを始めたと聞いているが、健康上に問題はないのか?」との質問が飛んだ。キアロスタミ監督は「それは確認できていないが」と詳細を語るのを控えたが、そのやり取りを聞いていた『サーティファイド・コピー』(原題)の主演女優ジュリエット・ビノシュが、パナヒ監督のおかれた状況を思ってか、泣き出す一幕もあった。
キアロスタミ監督は映画『桜桃の味』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞するなど、イランを代表する映画監督。パナヒ監督はキアロスタミ監督の助監督出身で、監督デビュー映画『白い風船』では、キアロスタミ監督が脚本を務めるなど親交が深い。ほか、同様に現政権を批判している『ブラックボード 背負う人』のサミラ・マフマルバフ監督も国内での映画製作を制限されていることを明かしており、こうした同胞たちの苦境にキアロスタミ監督は黙っていることができなかったようだ。(取材・文:中山治美)