撮影とキャストは日本人、監督はイタリア人の異色作上映!
第67回ヴェネチア国際映画祭
第67回ヴェネチア国際映画祭で、さまざまな角度からイタリアを見つめる「コントロカンポ・イタリア」部門で、監督はイタリア人、撮影とキャストは日本人という異色作『タルダ・エスターテ(晩夏)』が招待上映された。
映画は、病に侵されたローマ在住のジャーナリスト・健二(イタリアで活躍している俳優ハル・ヤマノウチ)が、30年ぶりに日本へ帰国するところから始まる。東京に住む老いた母親や、京都で旅館を営む伯母の元へと訪ね歩き、大きく変わってしまった故郷への戸惑いと、変わらぬ人の温もりと風景をポエティックに写し出していく。それと同時に、彼が長年帰国しなかった背景に、健二を待ち続けていた紀子(大島央照)という恋人の存在があったことが明らかになるという人間ドラマだ。
二人は、2008年にも世阿弥をテーマにした短編『デュー・ヴォイシス(雫の声)』を製作するなど、かなりの日本ツウ。特に、夫人が日本人のアンジェリス監督は「オヅ、ミゾグチ、ナルセ、キタノどれだけ日本の文化に影響を受けたことか」と、日本について語り出したら止まらないほど。本作の中にも、その片鱗が随所に現れる。まずタイトルは、小津安二郎監督『晩春』からで、ヒロイン紀子の名も原節子の役名から。一方、主役の健二は、溝口健二監督の名前を拝借している。その他、川端康成の小説の一節を引用し、川端が愛した群馬県・法師温泉でロケも敢行。ローマ→東京→京都と旅する健二が、最後に京都の丹後松島の海岸へ行くのは、海を好んでロケ地に使用する北野武監督作品へのオマージュだ。アンジェリス監督は「僕たちにとってイタリアの街は、汚れたキャンバス。どこで、何を撮っても、すでに他の作品で荒らされてしまった感じがする。それに対して日本を舞台にすることは、真っ白なキャンバスにようだった。特に日本の自然は、岩の上に松がかかっているだけで絵になるというか……わび・さびを感じる? そう、それ! すごく精神的な感じがするんだ」と日本愛を熱く語る。
上映に合わせてヴェネチア入りした紀子役の女優・大島央照は、コミュニティサイト「マイ・スペース」を通じて出演依頼が届いたという、今どきな経緯でキャスティングされた。健二の回想シーンで登場するミステリアスな役どころから、「モダンさと古典的な雰囲気が混じり合った、クールなイメージの女性」を求めて、アンジェリス監督たちは100人ほどの日本人女優をウェブを使って探し、大島のサイトに出会ったという。大島は「出演依頼のメールが誠実だったので、引き受けてみようと思いました。日本ロケでは監督二人がしょっちゅうケンカしていたんですけど(笑)、一つ一つのシーンにこだわって、日本的なものを美しく捕らえようとしていたと思います」と振り返る。
残念ながらまだ日本公開の予定はないが、イタリア人を通して見る日本は、大きな関心を呼びそうだ。(取材・文:中山治美)