ビートたけし、「正義」は変化する…社会で生きるということ
『MOZU』男たちの正義
『劇場版 MOZU』は、俳優・ビートたけしによって方向付けされたといっても過言ではない。テレビシリーズを通して最大の闇とされてきた“ダルマ”。重大事件を陰で操り、主人公の公安警察官・倉木尚武(西島秀俊)らを翻弄(ほんろう)する“最大の闇”が、たけしによって命を吹き込まれたのだ。「もし、たけしさんが引き受けてくださらなかったら、『ダルマ』は劇中に登場することはなかった」と口をそろえて断言する西島と羽住英一郎監督。これに対してたけしは、「ありがたいことだけど、演じる怖さもあったね」と本作を静かに語り始めた。
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たけしにとって、ダルマにとっての「正義」とは?
果たしてダルマとは、人物なのか、組織なのか、あるいは国家が作り上げた偶像なのか、さまざまな憶測が飛ぶ中、この役を全うできる俳優としてたけしの名が挙がり、実像化が一気に動き出した。これは、テレビシリーズで決着を見なかった、『劇場版 MOZU』にとって最大の見どころでもある。このダルマについてたけしは、「俺は悪だとは思っていない。個人の命よりも、社会をどうやって維持していくか、国自体の守り方を構築する陰のリーダーとして祀り上げられている象徴のようなもの。その裏で国家が機能しているということだと思う」と分析する。
たけし自身は、社会における「正義」「不義」、あるいは「必要悪」というものをどう捉えているのだろうか。「組織によって社会が動いていて、その社会の一員として自分が生活しているとなると、いざというときは、その組織の犠牲になる運命にあると思う。(『ダルマ』のように)当然、組織は個人のためよりも組織のために動くわけだからね」と返答。「戦争が一番良い例だよ。ごく普通の農家の方が、『赤紙』1枚で戦地に行かなければならない状況に追い込まれるわけで、NOといえば、組織からはずされ、時期によっては酷い仕打ちを受けることもある」と顔を曇らせる。「つまり、時代、時代によって、個人と社会の問題も変わり、それによって『正義』自体も変わっていく。そのとき、どこの視点に立っているかによるよね」と持論を展開した。
「俺らはローストビーフか?」たけしVS.西島、炎の中の対決!
今回が羽住監督率いる「MOZU」チーム初参加となったたけしだが、何といっても、炎の中で西島と対決するシーンが、いろいろな意味で熱い。「(羽住監督に対して)あれだけブルーバック使って撮影しているんだから、炎もCG使えばいいのにって思っていたんだけど。よくよく考えてみると、景色は動かないし、炎はどう動くか予測がつかないから、実際にないとわかんないんだな」と納得の表情。
それでも、地獄のように熱かったというたけしは、「あの炎の中に入れられたら、もうローストビーフ状態だよな(笑)。俺なんか、顔を特殊メイクで覆っちゃっているから、熱いのなんのって。ダルマのメイクなのか、本物の火傷なのか、わからなくなっちゃって。とにかくすごい現場だった」とぼやき節。
これに対して西島も、「監督は平気で『もう1回!』って言いますからね。しかも演技とかじゃなくて、カメラアングルの問題で」と追随すると、羽住監督は「いやでも、もう1回はもう1回ですからね」と笑みを浮かべて応戦。さらに、フィリピンロケの様子を本編で観たというたけしは、「炎で酷い体験したなって思っていたけど、もっとすごかったな。俺、絶対に行かないよ!」と最後はビビりまくっていた。(取材・文:坂田正樹)
『劇場版 MOZU』は11月7日より全国公開