アカデミー賞の失態、読み違えトラブルの真相
第89回アカデミー賞
先日のアカデミー賞授賞式で作品賞が『ラ・ラ・ランド』と発表されるというハプニングがあった。その瞬間、舞台の袖では、「オーマイゴッド、封筒が違う」と大騒ぎになったという。なのに、なぜ、訂正するのに2分以上もかかったのか。数日たった今も、業界関係者は、前代未聞のハプニングから受けたショックをぬぐえないでいる。(Yuki Saruwatari / 猿渡由紀)
間違いの原因を作った会計コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、すぐに非を認め、謝罪の声明を発表した。だが、それからまもなく、プレゼンターのウォーレン・ベイティに封筒を手渡した同社のブライアン・カリナンが、同じ頃、舞台の袖でエマ・ストーンの写真を撮り、ツイートしていた事実が発覚する。カリナンはその投稿を削除したが、時遅し。仕事の最中にセレブに気を取られていたことが、ばれてしまった。そもそもカリナンはセレブの写真を得意げにツイートするのが趣味だったようで、過去の写真のいくつかも現地メディアに浮上している。
カリナンは、PwC勤務歴30年のベテラン。会計士という職業は、本来なら地味なのだが、同社は過去83年、オスカーの投票作業を任されてきた。カリナンは、2014年にこのおいしい担当を引き継いでいる。
受賞結果を知るのは、カリナンともうひとりの担当者マーサ・ルイスのみ。2人は結果を暗記している。受賞結果が入った封筒は、同じものをふたつずつ作り、カリナンとルイスは合計24枚の封筒を入れたブリーフケースをそれぞれに抱え、別々の車で会場に向かう。途中、何かあっても、少なくとも1人は時間までに会場に到着できるようにする目的だ。車は警察に援護される。
会場で2人は、舞台の右と左に分かれて立つ。プレゼンターは右から入る場合もあれば、左から入る場合もあり、自分ではないほうから入った場合、その部門の封筒は、発表後も自分の手元に残ることになる。カリナンはしっかり確認せずに、予備のほうの主演女優賞の封筒を、作品賞のプレゼンターであるベイティに渡してしまったというわけだ。
封筒を開けて、「エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』」という文字を見たベイティが、おかしいなと思ってフェイ・ダナウェイに見せたところ、ダナウェイは 『ラ・ラ・ランド』の部分だけを見て、そう発表してしまった。授賞式のプロデューサー、マイケル・デ・ルーカは、ただちに事態を把握し、重要なスタッフに連絡を取ったという。ホストのジミー・キンメルは、閉幕のジョークに備えて客席にいた。
正しい受賞作品が『ムーンライト』だと伝えられたのは、『ラ・ラ・ランド』の3人目のプロデューサーが受賞スピーチをしている時。その頃にはキンメルも舞台に上がってきていたのに、「間違いがありました。『ムーンライト』、受賞したのはあなたたちです」と発表したのは、『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー、ジョーダン・ホロウィッツだった。ここもまた、もう少しなんとかならなかったのかと思われる点である。
授賞式前の The Huffington Post へのインタビューで、「もしも受賞結果が間違って発表されたらどうしますか」と聞かれたカリナンは、「そういうことは絶対にないけれども、あったら、授賞式をストップしてでも、自分が出ていってでも、ただちに訂正します」と述べていた。だが、彼は出ていかなかった。そこにどんな事情があったのかは、わかっていない。
事件後、アカデミー会員の中からは、PwCを解雇すべきだとの声が出ていたが、西海岸時間1日、アカデミーはカナリンとルイスを出入り禁止にすると発表した。PwCを使い続けるかについても、検討中だという。アカデミーはまた、このような事態を避けるために、舞台の両袖に封筒を渡す人を2人ずつ配置することも考えているようだ。新しい会社を雇うにしろ、PwCとの関係を続けるにしろ、来年、ここに立つ人がTwitter禁止の契約書にサインさせられることは、間違いなさそうだ。