ハリウッドに蔓延る性・人種差別…マイク・ミルズ監督が感じる危機
映画『サムサッカー』や『人生はビギナーズ』で家族のドラマを描いてきたマイク・ミルズ監督が、アネット・ベニングを主演に迎えた映画『20センチュリー・ウーマン』が6月3日に全国公開を迎える。少年時代を振り返って「世界に対して飢えていた」というミルズ監督が、作品に込めた想いや、昨今のハリウッドへの印象について語った。
変わり者である母ドロシアと、多感な息子ジェイミーの関係を描く本作は、前作『人生はビギナーズ』に続いて、ミルズ監督自身の体験を基にしている。「『人生はビギナーズ』を撮影していたとき、僕の母のことを少し描いていたから、彼女がどれだけユニークな女性であるかということ、そして彼女がユニークな子育てをしていたことに気づかされたんだ」と述懐するミルズ監督は、「僕はサンタバーバラを出たくて、成長したかったんだ。世界に対して飢えていたんだよ」とジェイミーに通じる思いを少年時代に抱いていたことを明かす。
『人生はビギナーズ』の公開から6年を経た中で、ミルズ監督は息子を持った。この経験は大きな影響をもたらしたようで、「本作の脚本を書いているときに息子が生まれたんだけど、父になった僕は明らかに、ジェイミーではなく、ドロシアのような人間になったよ。彼女が言うことのいくつかは、息子について僕が語ったことなんだ」と照れ笑い。また、「僕の母のアバターであり、僕について語るドロシアを通じて、僕の息子のことを語るのは、面白かったと同時に、奇妙でもあったね(笑)」と振り返る。
劇中では、ドロシア、ジェイミーの親友ジュリー(エル・ファニング)、ドロシアの家の間借り人アビー(グレタ・ガーウィグ)という3人の女性が、女性ならではの壁にぶつかる姿も見どころだ。近年では女性の活躍の重要性がハリウッドで盛んに議論されているが、ミルズ監督は「女性監督が出資を受けることは困難だ。特に『スター・ウォーズ』のような作品ではまず不可能だね。他の文化と比べて、すごく時代遅れで良くないことだと思うよ」と男性優越主義の存在を指摘。ハリウッド全体については「あまりにも商業的」と苦言を呈し、「未だに人種差別主義がある。彼らは白人主義を我々が自然なものであると考えるように扱っているんだ」とも考えを示す。
そんなミルズ監督は、映画の題材として、トランプ大統領や差別問題に関心がある様子。「トランプに限らず、近頃のアメリカでは人種差別や女性嫌悪、そして経済格差が復活しつつある」と警鐘を鳴らし、「中年女性の問題やセクシュアリティーを彼女たちの視点から描いた本作では、紳士的に政治的な面を出すよう努めたけど、もうそれでは十分じゃないと思う。どうすればいいのかは分からないんだけどね」と語るその横顔からは、次回作に対する、曖昧ながらも力強い意欲が伺えた。(取材・文:岸豊)
映画『20センチュリー・ウーマン』は6月3日より丸の内ピカデリーほか全国公開