何より制作現場を守る「クレしん」体制 なぜ成長したしんちゃんを描かない?
テレビアニメ「クレヨンしんちゃん」や『映画クレヨンしんちゃん』の一番のファンは、原作者である臼井儀人氏だった。アニメの制作現場を信頼し、現場が作りたいと思った作品を優先できるようにしていた臼井氏。そしてその臼井氏と共に原作漫画を発行する双葉社もまた制作チームを守り続けてきた。
【画像】大人のしんのすけが登場する『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』
「臼井先生はアニメの制作現場のことをすごく信頼されていたので、だからこそ自由な作品が作れたんだろうなと思いますし、先生の寛容さは、今まで続いてきた『しんちゃん』にとって大きいことなんだろうなと思っています」と話すのは、双葉社クレヨンしんちゃん編集室編集室長の鈴木健介氏。劇場版を作る際も、時にミュージカルを見たいという臼井氏のリクエスト(『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』)などは入れつつも、基本的にシンエイ動画側のアイデアから物語は生まれていくことが多かったという。
「本当に臼井先生が現場の考えをすごく尊重されていた」と明かす鈴木氏。だが双葉社も同じ立場だった。「臼井さんがそうだったからということもあるのですが、実際の制作現場の意見を守りたいというスタンスは今も変わりません」。アニメの制作現場には物語や登場人物の変更などさまざまな大人の事情も絡んできたりすることもあるが、その時にもやはり制作現場を第一にするのが「しんちゃん」だった。
時々反省やテーマ性の確認を繰り返しながらも新作を作り続け、今年25作目『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』の公開を迎えた「しんちゃん」。「『しんちゃん』って才能に恵まれている作品だなって思っていて。そういう方たちにやっていただけたから、先生も安心してお預けしていたんだと思うんです。ここ数年、交互に監督をしていただいている橋本昌和監督と高橋渉監督も非常に才能豊かなクリエイターですし、今のしんちゃんもそういう方々に支えられているんだと思います」。
しかし臼井氏の思いを継がない「しんちゃん」の新作はない。「『映画クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』の時に大人のしんのすけが出てきましたが、『大人になったしんのすけをそのまんま出したくない』と臼井さんがおっしゃっていたので、彼はアクション仮面のマスクをかぶって登場するんですよね」。
永遠の5歳児として活躍するしんのすけ。原作やアニメには、しんのすけが小学生に成長したら……というエピソード「エンピツしんちゃん」も存在するが、彼が成長するエピソードは今後作られることはあるのだろうか。「大きくなったしんのすけは……『エンピツしんちゃん』止まりなのかなっていう気はします。可能性がまったくゼロというわけではないとは思いますけれども、ただそれをやるには必然性が必要だと思います。なぜやるのか理由がなければ、おそらくやるべきではないと思うし、できないだろうなとは思いますね」。臼井氏の言葉は今も鈴木氏らの心にある。(取材・文:編集部・井本早紀)