押井守、フルCG『バイオハザード』マニア納得のウソがイイ!弟子の成功願い発破
人気ゲーム「バイオハザード」をもとにしたフルCG長編アニメーション映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』の5月27日公開に先駆け、監督の辻本貴則と、彼を見出した師匠ともいえる存在である押井守が対談。「映画として成立しているし、アクションは誰が観ても納得する」と出来に太鼓判を押した押井だが、話が進むにつれて、あるシーンが「凡庸」とまさかのダメ出しをする場面も……。そんな師弟コンビが本作を語った。
本作は、ゲームファンおなじみの主人公クリス・レッドフィールドとレオン・S・ケネディが映画で初めて共闘し、新型ウイルスによる大都市ニューヨークへのバイオテロを阻止するため奮闘する姿を描いた、3本目となる「バイオハザード」の長編CGアニメ。
手はじめに押井は「良い人選だったんじゃないですかね。『バイオハザード』ってファンタジーのなか、ポリティカルでアクチュアルな要素もいっぱい入っている特殊な映画。CGだけではなく実写の感性も必要。辻本はそこがまたがっている」と辻本監督の起用を評価。その一方で、辻井監督から本作の話を相談されたとき「このチャンスをものにして欲しいと思っていた。失敗したら、あとの人間が続かないので『使命感を持って絶対成功させろよ!』ってプレッシャーをかけましたね」と笑う。
完成した作品についても「映画として成立しているし、初めて『バイオハザード』に触れる人のことを考えて作っている。中学生からいいおっさんまで無理なく観られるし、アクション映画として王道の作品になっている」とたたえた押井は「アクションは誰が観ても納得すると思う。ガンアクションって今はハリウッドの専売に近いけれど、これだけのものをスクリーンで観られるのはすごいよね」と笑顔を見せた。
さらに「スタッフに恵まれた部分は感謝すべき。個人的に園村(健介)くんは、いま日本で一番のアクション監督だと思っているし、音楽の川井憲次もそう。なによりも深見(真)くんの脚本が良かった。これだけの布陣で臨んで失敗したら、監督の責任。でも逆にいえば、これだけの顔ぶれを揃えると監督は苦労するのはわかる。その意味で、しっかり答えを出したのは評価できます」と付け加えた押井。辻本監督は「確かにこの映画の話を押井さんに相談したとき、プレッシャーをかけられましたね」と苦笑しつつ、「アクションについては90分という尺のなかで、いろいろなパターン、例えばガンアクションからのナイフ、肉弾戦というような流れはしっかり考えました」とこだわりを明かす。
そんな辻本監督のこだわりに押井は「アクションはてんこ盛りでいろいろなバリエーションが入っているけれど、あえていえば(中盤に出てくる)ミニガン(ガトリング銃)。いろいろな事情はわかるんだけど、使い方が凡庸だよね。他の監督ならともかく、ガンアクションの専門家(注:辻本監督は押井が審査員を務めた自主映画コンテスト『ガン・アクション・ムービー・コンペティション』をきっかけに商業映画デビューしている)であるお前だったら、何とか考えろよって思った」と言及。その後も、押井は劇中で使う銃器が、作品にどのような意味をもたらすかなどを説明する。
そんな押井のダメ出しに苦笑いを浮かべる辻本監督が、「銃器監修に入ってくださいよ!」と訴えかけると押井は「逆に言えば、あとのところは良くできているってことだよ」とフォロー。「今は寄って集ってリアルに作り上げることに躍起になることが多いけれど、監修を入れるということは、選択を狭めるのではなくて、逆に広げること。リアルにこだわり過ぎるのではなく、そのなかで映画的な嘘をどこまで入れられるかが大切。ガンマニアを唸らせつつ、嘘も入れるのが良い作品だよね」と持論を展開していた。(取材・文・写真:磯部正和)