『くちびるに歌を』の少年がすっかり成長!声変わり経て声優に挑戦
新垣結衣が主演した『くちびるに歌を』(2015)で自閉症の兄を持つ中学生・桑原サトルを演じ、透明感あふれるボーイソプラノを披露した下田翔大が、テレビアニメ「四畳半神話大系」などで知られる湯浅政明監督の映画『夜明け告げるルーのうた』で声優に挑戦。変声期を経て大人への階段を一歩上った下田が、普段の芝居と異なる声優ならではの難しさを語った。
『くちびるに歌を』の合唱に続き、本作では斉藤和義の名曲「歌うたいのバラッド」を熱唱して力強い歌声を響かせた下田。しかし、その歌唱シーンで監督からは「歌わなくていい」という意外な言葉が飛び出した。「『歌わなくていいけど、心の叫びがメロディーにのっていくぐらいの気持ちで。歌おうって思うんじゃなくて、自分の気持ちを吐き出すように』と言われました」。現場では湯浅監督がお手本として叫ぶように歌ってみせたそうで、「監督がこの映画を作るにあたって思っていたことを具現化した感じでした。思いがすべて詰まっていた」と心に響く監督の歌声を反芻していた。
また、最初は慣れない声優業に緊張していた下田だが、収録開始からほどなくして斉藤壮馬、寿美菜子というプロの声優と一緒に掛け合いのシーンを録ったことに大きな刺激を受けたという。「階段を下りるときの息遣いとかも、現実だったらそんな音は出ないけれど、でも(二人は)その音を作れる。今どういう心情なのかっていうのがため息一つをとってもわかるんです。すごく勉強になりました」。
それでも、普段の芝居と違って表情や動きで表現できないことに苦戦した部分もあったようだ。「声優はそのキャラがいて、そこに声を吹き込むから、自分がやりたいことだけじゃなくてそのキャラに合わせていかないといけない。感情を表現するのにも声だけしか使えないからすごく難しかったです」。
幼少期はキッズモデルとしてCMに引っ張りだこ、俳優としても徐々に注目されるようになってきた下田は、目標とする俳優に山田涼介(Hey! Say! JUMP)、三浦春馬、佐藤健の名を挙げる。中でも24時間テレビドラマスペシャル「母さん、俺は大丈夫」で共演した山田の芝居には衝撃を受けたそう。「素の感じだけど、それが役になっていてビックリしました。僕とかは芝居をしようと思うと芝居くさくなっちゃうんですが、山田くんは芝居じゃなかったです。芝居じゃないとしか言いようがない感じで、自然でした。その人になっていた。芝居っていう枠がある時点でそれは芝居になっちゃうけど、でもその中で一番リアルに近いところにいるなと一番感じた人です」。
現在下田は中学三年生。自身をどんな中学生だと思うかという問いには、「まぁ、普通じゃないですよね(笑)。まずこの仕事をやっている時点でやっぱり普通とはちょっと違うし、特殊」と大人な顔をのぞかせた。それでも、「でもそれも楽しいから。みんなとは違うところもできるし、みんなと同じところも全部感じられるから、すごくお得してる感じ(笑)。普通の中学生だったらできないことをやらせてもらっているので、とっても楽しいです」と仕事と同じくらい学生生活も楽しんでいる様子。演技をしていく上で必要な客観性を14歳にしてすでに身に着けている下田の姿に、今後の活躍を期待せずにはいられなかった。
『夜明け告げるルーのうた』は、東京から寂れた港町に引っ越してきた中学生のカイ(下田)が、人魚の少女ルーとの出会いを機にかたくなに閉ざしていた心の扉を少しずつ開いていく姿を湯浅監督ならではの独創的な世界観で描いた作品。5月19日より公開。(編集部・吉田唯)