映画音声ガイドの今 河瀬直美の新作『光』が教えてくれること
今年の正月映画より、日本映画製作者連盟を組織する大手配給会社の東宝・松竹・東映・KADOKAWAで、すべての邦画に音声ガイドをつける試みが始まった。近年、日本初のバリアフリー映画館がクラウドファンディングなどの募金によって設立されたり、映像の音声を端末が拾うと字幕表示や音声ガイドの再生が行えるアプリが開発され、大手シネコンに導入されるなど、普通の映画館でもバリアフリー上映を楽しめるようになってきた。「その一つの助けになれば」という思いを映画にしたのは、カンヌ国際映画祭の常連・河瀬直美監督。新作『光』(5月27日公開)に込めた思いを語った。
『光』は弱視のカメラマン雅哉(永瀬正敏)と、音声ガイド制作者の美佐子(水崎綾女)の交流を通して、魂でつながる愛を描いたラブストーリー。映像を言葉で説明する音声ガイドにもスポットを当てた意欲作で、開催中の第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも選出されている。前作『あん』で初めて音声ガイドに触れ、制作者たちの映画への愛の深さに感激したという河瀬監督は、「視覚障碍者の人たちに、ちゃんと映画を届けたいんだなっていう思いが伝わってきました。あんまり知られていないこの存在を、映画を愛する全ての人はきっと知りたいと思うだろうし、そここそ描きたい」と思ったことが、『光』を作るきっかけとなった。
劇中にある音声ガイドのモニター会には、監督のこだわりで一般の視覚障碍者の方も参加している。「音声ガイドの体験のある視覚障碍者の方に出演してもらうことは、役者だけでは表せないリアリティーを出すために、わたしにとっては絶対に必要でした」。その強い願望の裏には、「見えない人に映画を見せるっていうのはすごいこと」という、日本で初めて音声ガイドの制作や普及に取り組んだ人たちへの敬意がある。
「目の見えない方たちはわたしたちの周りにもたくさんいらっしゃって、そういった方が映画館でも映画を楽しめる環境は整いつつありますが、それでもいろいろな意味で闘っていることはまだまだたくさんあると思います。この映画がその一つの助けのようなものになれるならうれしいと思います。ただ、その存在を知られていない、という意味で間口が狭い映画ではいけないので、間口を広げることをしっかり考えて物語を構築していきました」
河瀬監督は、主演の永瀬とヒロインの水崎に撮影前から実際に撮影セットの中で生活してもらい、役として生きることを指示した。共に全身全霊をささげて完成させた『光』には、「人間は完璧な存在ではないことを自覚し、それでも、それだからこそ、その人生をどうつなげていくのか」を考える、映画と人間の可能性を探るメッセージが込められている。(編集部・小松芙未)