人気声優・鈴木達央にもあったキャリアへの葛藤…乗り越えられた理由は?
日本のスーパー戦隊をベースにした米テレビシリーズをハリウッドで映画化した『パワーレンジャー』の日本語吹き替え版で、声優を務める鈴木達央。声優として第一線で活躍する鈴木だが、これまでの声優生活は必ずしも順調なものではなかった。葛藤も多くあったという自身のキャリアや、人気声優の起用で注目を浴びる洋画の吹き替えについて語った。
本作では、期せずして大きな力を手に入れ世界の脅威に立ち向かうことになる5人の高校生のうちの1人、ザック/ブラック・レンジャーの声を演じた鈴木。この出演は戦隊ファンの間で大きな反響を呼んだのだが、それは鈴木がスーパー戦隊シリーズ36作目「特命戦隊ゴーバスターズ」(2012年)で、戦士の相棒ロボットの声優を務めていたから。「ファンの皆さんも含めてすごくあたたかく迎え入れてもらえた」と「ゴーバスターズ」当時を述懐する鈴木は、再び東映特撮シリーズに関わる作品に参加することに対するファンの好意的な反応に、「特撮ファンの方々ってすごく熱量が大きい。それをわかっているからこそ、受け入れていただいていることがありがたいです」と喜びをにじませる。
本作の主人公たちはティーンエージャー。鈴木が「人間ドラマがしっかり描かれている」ことを作品の魅力に挙げるように、それぞれの苦悩や葛藤が丁寧に描かれる。「10代の頃って自分の行動に明確な理由がなかったりする。自分も経験してきていることですが、それでもその頃に気持ちを戻さないと、10代特有の浮ついている感じやエネルギーがあふれている様というのは出していかないと、と思って演じました」。一方で、観客目線になると「俯瞰しちゃいますよね。どうしてもそういう時期はもう越えちゃっているので、みんなのことがすごく愛らしく見えました」と優しい笑みを浮かべる鈴木。
しかし、彼らのように思い悩んだ時代は鈴木自身にもあった。声優として歩み始めた頃を振り返り、「葛藤はすごくありました」と吐露する。「名前のある役をいただく機会というのが最初は少しあったのですが、その後そういうところから遠ざかっていた時期が長かったんです」と下積み時代を明かし、「作品として座長を務めたり、長く続く作品に出たりというよりは、一つ一つ自分なりの経験を積んでいくことの方が多かったので、“役付き”や、“香盤表の何番目に名前が来る”というのをすごく遅い段階で知ることになりました。そういう意味ではずっと葛藤はありましたね。だからこそいまだにその大切さを感じます」と噛みしめるように語る。
「状況が変わっていく中で、自分の置かれている状況、何をしなきゃいけないのか。一時期はそういったことも対応できておらず、それに対して10代の頃と同じような葛藤を感じていたこともたくさんありました」と続けたが、「今は経験則が増えてきましたし、うれしいことにたくさんの作品に出させていただき、すてきな作品・スタッフの方に包まれながらマイク前に立たせていただくことが多く、すごくいいものを毎回毎回受け取って次に進めているなと思っているので、自然と乗り越えられるようになりました。きっとそれは1人の力ではなくて、多くの方に支えられていたからだと思っています」と周囲への感謝の思いは強い。
アニメ「Free!」シリーズの橘真琴役や、「黒子のバスケ」シリーズの高尾和成役で知られ、今ではすっかり人気アニメに欠かせない存在となった鈴木。声をあてるに際し、アニメと今回のような実写作品とで違いはないという。どちらも共通して「演じた役が実在しているかのようにしたい」というのが鈴木の取り組み意識。『パワーレンジャー』であれば、向こうの役者が作ってきたものに鈴木なりの演技を重ねる作業だったが、アニメのような2次元の場合でもアニメーターが作り上げたキャラクターに鈴木自身の芝居を乗っける。「明確な差はきっとありません。そこで差を作ってしまうとキャラクターを作っていることにはなっても、役を作ることにはならない。どうしても“人”を作りたいのでそのためには吹き替えもアニメも作業は変わらないです」。
洋画の大作が公開されれば日本語吹き替え版も話題となる昨今。鈴木の言葉を借りれば「一周まわって吹き替え版というのが出始めた頃の風潮が戻ってきた」ような現状については、「声優というのが吹き替えから始まっている文化なので、吹き替え版に目を向けていただけるのは演者としてうれしいですよね。作品や俳優のファンの方を大事にしたいのはもちろんですが、吹き替え版にも期待していただけるのは、とてもありがたいことです」と話していた。(編集部・小山美咲)
映画『パワーレンジャー』は公開中