難民問題にどうかかわればいいのか?カウリスマキ映画のシリア人俳優が真摯なメッセージ「あなたの仲間が危険な目に遭っていたら?」
フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキが手がける「難民三部作」の第2弾となる映画『希望のかなた』(12月2日公開)の先行上映会が2日、渋谷のユーロライブにおける「国連 UNHCR 難民映画祭 2017」内プログラムの一環として行われ、初来日を果たした同作主演のシリア人俳優シェルワン・ハジが難民問題についてメッセージを送った。
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フランス北西部の港町を舞台に、アフリカからの難民の少年をかくまうことになった夫妻を描いた2012年の『ル・アーヴルの靴みがき』に続く「難民三部作」の第二弾となる本作。生き別れた妹を捜し求め、フィンランドに流れ着いたシリア難民カーリド(ハジ)が、レストランのオーナーや仲間たちと出会い、希望を見いだしていく物語となっている。当初は「港町三部作」という構想で制作が進められた本作だが、その後、カウリスマキ監督自らが「難民三部作」とあらためて位置づけたように、欧州連合(EU)における難民問題をクローズアップした作品となっている。
映画上映後、大勢の観客の前に立ったハジは「日本語を習ってきました」と切り出すと、「イラッシャイマセ!」と日本語であいさつ。さらに日本語で「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ!」と続けると、「数字も学んでいるんですよ。ハチは僕のラストネームですから」とコメント。さらに劇中では、売上げの悪いレストランを立て直すべく、従業員たちが見よう見まねで日本の寿司レストランに改装してしまう爆笑エピソードが織り込まれていることから、劇中で着用していた帆前掛け、はちまき姿を披露し、再び「イラッシャイマセ!」。その茶目っ気たっぷりな人柄で、会場を和ませた。
ハジは1985年にシリアで生まれ、2010年にフィンランドに移り住んでいる。それはシリア内戦が始まる前のことであったが、移住の理由について「僕は愛の難民だったんです。フィンランドに移ったのは女性(妻)のためです。男性が物事を決める要因は、女性によるところが大きいんですよ」と笑顔を見せた。
これまではテレビや舞台などで俳優業を行う一方で、ショートフィルムの監督業やインスタレーション制作を行ってきたというハジ。そんな彼にとって本作は長編映画初主演作となる。「最初にこの映画の話を聞いた時は、どういう内容かわからなかったんですけど、後にそれがカウリスマキ監督の映画だと知ってとてもビックリしました。夢がかなったような気分です」とオファーの経緯を説明。「ただ、それも緊張と興奮が入り交じったような感情でしたね。やはり難民問題というのは非常にデリケートな問題ですし、実際に日々苦しんでいる人がいる。責任の重さを感じました。ただし、カウリスマキ監督のような人生経験が豊富な人が、人生において何か良いことをしようとしている場に参加できるわけですから、きっと人生に実りをもたらしてくれると思いました」と付け加えた。
そんなハジに「われわれは難民問題にどう関わればいいか?」という問いかけが投げられたが、「それは難しい質問です」と語るハジ。「人々の考えはそう簡単には変えられるものではないですが、でも一方で誰かの心に刺激を与え、考えてもらうことはすばらしいことだと思うんです。こう考えるのはどうでしょう? 仲間が危険な目に遭っていたら、無視はできないじゃないですか。自分たちが同じ人間であるという本能、人道的な精神を持ち続けるのは、人間として大事なことであり、義務ではないかと思うんです」と真摯なメッセージを送った。(取材・文:壬生智裕)
映画『希望のかなた』は12月2日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開