広瀬すずのヒロインオーラに圧倒された 恋愛映画の名手が語る女優論
これまで若い男女をテーマにした恋愛映画を数多く手がけ、その多くをヒットさせてきた三木孝浩監督。彼の最新作映画『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(10月28日全国公開)では、生田斗真演じる教師と広瀬すずふんする生徒との純愛を描いた。三木監督といえば、音楽と映像の絶妙な融合からなる美しい世界観が特徴として挙げられるが、なかでもスクリーンで輝く女優の瑞々しさには目を見張るものがある。なぜ女優をキラキラと輝かせることができるのか。過去に三木作品に出演した女優たちへの証言をもとに、その理由に迫る。(取材・文:磯部正和)
三木監督の商業映画デビュー作となった2010年の『ソラニン』でヒロイン・芽衣子を務めた宮崎あおいから始まり、『管制塔』の橋本愛、『僕等がいた』の吉高由里子、『陽だまりの彼女』の上野樹里、『ホットロード』の能年玲奈(現・のん)、『アオハライド』の本田翼、『くちびるに歌を』の新垣結衣、『青空エール』の土屋太鳳、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の小松菜奈と、そうそうたる面々がヒロインを演じている。
いっけんすると“旬である”ということ以外に共通点が見つけづらいが、三木監督は「一瞬見せるパブリックイメージと違う顔がイメージできる女優」に魅力を感じるという。「美人でポジティブで笑顔が素敵というのは、主役を張る女優さんは誰もが持っていると思うのですが、憂いの表情がイメージできる人に惹かれるんです」と語る。
映画『先生!』のヒロインは広瀬が務める。「彼女が14歳のとき一度オーディションでお会いしたことがありまして、本人は無自覚だったと思いますが、ヒロインオーラがすごかったんです。その後、いろいろな作品を重ねていますが、どちらかというとポジティブで前向きなキャラクターが多かった。でも『海街diary』の内に何かを秘めた感じの表情がすごく良くて。『先生!』の響という役柄を演じたとき、いままでの広瀬すずのどんな表情よりも良いものが撮れると感じられたんです」と起用理由を語る。
ここには三木監督の持論があるという。「女優さんは可愛いくてきれいなのは、誰でもわかっていることだと思います。そのなかで、恋愛映画という意味では、どこまで視聴者が“そばにいる人感”を得ることができるか。普段メディアを通して見せる顔とは違う表情をいかに引き出せるかで、視聴者は“自分だけ知っている顔”と思える。このことでヒロインに強く感情移入できると思うんです」。
この作品の広瀬演じる響は、恋に臆病で内気だが、芯は強く、時よりこぼれ出るように感情が見え隠れする。三木監督は「感情を発露しないように我慢する表情や、憂いある感じは抜群でした。そういう瞬間をたくさん切り取れたと思います」と一番の広瀬をスクリーンに焼き付けられたと自信をみせる。
こうした三木監督のキャスティングは、他の作品にも共通しているのだろうか。「『ソラニン』の芽衣子は、迷いが多い女の子。ちょうど大河ドラマ(『篤姫』)を終えたあとで、芯のある強い女性を演じることが多かったので、普通の迷いが多く弱い女の子を演じてもらったら、違った宮崎あおいちゃんが撮れるのかなと思ったんです。でも僕の長編デビュー作で、まさか引き受けてくれると思っていなかったので、ダメ元でオファーしたんです」と当時を振り返る。
次作『管制塔』では当時14歳だった橋本愛を抜擢。「あの作品は山崎(賢人)くんの主観で描かれる妄想の世界に出てくるような女の子。どこか異星人ぽく宙に浮いているキャラクターで、顔の作りが現実離れしている美少女の愛ちゃんにはピッタリの印象だった」と語ると、『僕等がいた』の吉高由里子については「ある意味で、パブリックイメージをもっとも裏切るキャスティングなのかなと思います。『蛇にピアス』などクールでつかみどころのない印象があった吉高さんですが、この映画では、普通の町娘が傷ついた王子さまを助けるというヒロイン。自身のイメージとのギャップによって生まれた表情はすごく魅力的でした。このヒロイン像がうまくいったので、キャスティングにおいて、よりギャップということを意識するようになりました」とターニングポイントになったと述べた。
『陽だまりの彼女』、『ホットロード』に関しても、パブリックイメージとの“ギャップ”がテーマだった。「上野樹里さんもボーイッシュでガーリーなイメージがなかったので、真緒の役をやっていただいたらおもしろいかなと。能年玲奈さん(現在のん)についても、『あまちゃん』の印象が強かったので、和希という役はとてもふり幅が大きく、これまでの能年さんとはまったく違う表情がたくさん切り取れたと思います。タイミング的にもラッキーでした」。
さらに『アオハライド』の本田翼と『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の小松菜奈についても、パブリックイメージとのギャップがキャスティング理由だという。「彼女はモデルとして人気もありますが、本人は意外にも根暗だと公言していたりします。転んでも前に進みたいという双葉のキャラクターを、根暗な部分のバッサーが演じたら、魅力的な表情が映し出せるのかなと思ったんです。菜奈ちゃんもクールでミステリアスなイメージがありますが、そんな彼女に可愛いというキーワードをぶつけてみたら、どんな表情をするのかを観たいと思いました」とキャスティング意図を明かした。
一方、『くちびるに歌を』の新垣結衣と、『青空エール』の土屋太鳳については“ギャップ”というアプローチとは違う考えがあったという。「この2作品については、合唱と吹奏楽という題材を通して携わっている人が成長していくという、ある種ドキュメンタリーのような要素がある作品でした。これまで僕が撮ってきたものとは明らかに違い、フィクションでドキュメンタリーに勝るものはどうやって作ったらいいんだろうと考えたんです。その際、これまでのパブリックイメージにない顔が見えるという視点よりは、ド直球で一生懸命が共感できる女優さんは誰だろうという考え方をしたんです」。
「女優さんのフレッシュな瞬間ってきっとあるんだと思うんです。自分でいうのもなんですが、僕はそういう瞬間に出会えているような気がする」と三木監督は語る。続けて「そういう瞬間に出会うと、こちらから掘り下げなくても、どんどんと絵になる表情が出てきて、こちらは切り取るだけでいいんです。今回のすずちゃんもまさにそうで、生田(斗真)くんと現場で『まぶしいよね』と話していたぐらい」と自信をのぞかせる。三木監督は「ラッキーですよ」と謙遜していたが、女優を引き寄せる力を持っていることは言うまでもない。