北朝鮮を揶揄した映画は当分作られない?劇場公開中止作に見るハリウッド
コラム
北朝鮮による度重なるミサイル発射で、アメリカでも緊張感が高まる中、あらためて思い出される映画がある。3年前の『ジ・インタビュー(原題) / The Interview』だ。公開予定日直前に劇場公開が中止になったため、観ていない人も多いのだが、観た人は今思い返してあのコメディーはかなりリアルだったと感じているのではないだろうか。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
アクションサスペンス『エンド・オブ・ホワイトハウス』や、古くは2002年の『007/ダイ・アナザー・デイ』まで、北朝鮮を悪者にする映画は、ハリウッドにいくつかあった。操り人形を使った映画『チーム★アメリカ ワールドポリス』(2004)は、金正日を出してきてもいる。だが、『ジ・インタビュー(原題)』は飛び抜けて過激だ。なにしろ、金正恩を暗殺しようとするストーリーなのである。最後には彼が壮絶な形で死に、その後、北朝鮮は民主主義国家として生まれ変わるという話だ。
監督、脚本はセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグのコンビ、主演はローゲンとジェームズ・フランコ。フランコ演じるデイブ・スカイラークは軽いネタで知られるトーク番組のホストで、ローゲン演じるアーロンは番組プロデューサーだ。北朝鮮がアメリカに向けてミサイルを発射する危険が報じられた時、ちょうどアーロンは、もっとまじめで尊敬されるような内容を手がけたいというフラストレーションを感じていた。すると、なんと金正恩がデイブの大ファンだとわかったのである。二人は見事、金正恩の独占インタビューを取り付けたのだが、CIAから金正恩を殺してこいというミッションを背負わされてしまう。
最近はトランプが金正恩を「チビでデブ」と呼んだことが世間を騒がせたが、この映画ではローゲンが彼を「デブで変な髪型の男」と呼ぶ。さらに、この映画で描かれる金正恩は、ケイティ・ペリーの密かなファンで、好みのカクテルはかわいい傘の立ったマルガリータ。亡き父に認められなかったことに強いコンプレックスを感じていて、デイブがインタビュー中にそこを突くと泣き出し、パンツにおもらし(しかも大きいほう)をする。
北朝鮮政府は、公開予定日の数か月前に、この映画の公開を止めるよう米政府に要請してきた。それを受けて国土安全保障省は、スタジオに警告をしている。だがローゲンとゴールドバーグは、むしろそれを喜んだという(ローゲンは、お騒がせ俳優サーシャ・バロン・コーエンから「僕ですら核戦争の脅しは受けなかったよ」と祝福の電話をもらったとコメントしている)。スタジオも、最初の頃こそ架空の国の架空の独裁者に変更できないかと言ってみたりしたのだが、ローゲンとゴールドバーグにあっさり受け流され、テスト上映の反応が上々だったことから、公開時期をクリスマスに“昇格”までさせた。しかし、公開が近づいた頃、スタジオは“Guardians of Peace”を名乗る何者かにハッキングされ、社員の個人情報や、重役たちの個人メールなどが世間に暴露されてしまう。劇場主たちも被害を恐れてこの映画を上映しないと言いだし、最終的にスタジオは大きな損失を被ることになった。責任を取らされて、スタジオのトップは職を失っている。
北朝鮮は関与を否定したものの、FBIは犯人は彼らだと断定した。アメリカが北朝鮮の脅しに屈したことを批判する声も出たが、当時、あるプロデューサーは、「今後は、よっぽど事実に基づく、そこまでの価値がある作品でないかぎり、北朝鮮を悪者にする映画は作られないだろう」と語っている。少なくとも今は、それがたしかに正解かと思われる。北朝鮮が出てくるハリウッド映画は、おそらく、これからしばらく目にすることはないだろう。