常盤貴子、女優ではなく人間として泣いた…大林宣彦監督から学んだこと
女優の常盤貴子が16日、有楽町スバル座で行われた映画『花筐/HANAGATAMI』初日舞台あいさつに来場、大林宣彦監督に感謝の言葉を述べた。この日は窪塚俊介、満島真之介、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、村田雄浩も来場した。
太平洋戦争勃発前夜の佐賀県唐津市を舞台に、自分たちの命すら自由にならない若者たちの青春群像劇を描き出した本作。多くの困難を乗り越え、晴れやかな表情を見せるキャスト陣のなかで「初対面の時に大林監督にお説教されました」と振り返るのは矢作(やはぎ)。「穂香」という下の名前だけで芸能活動しようと思った際に、本名のフルネーム「矢作穂香」を大林監督にすすめられたそうで、矢作は「女優としても人間としても生まれ変わったように名付けていただいて。矢作穂香として出ることになりましたが、大林監督に出会えて、生まれ変われたような気持ちになりました」としみじみ。「矢作という名前はなかなか読みづらいので、女優としてはない方がいいんじゃないかと言っていたんですが、君が女優として育てば、世界中が矢作と読んでくれる。それが矢作という家に生まれた君の責任なんだよと言いましたね」とやさしいまなざしを送る大林監督だった。
一方、「わたしは大林組は3作目。本当にいろんなことを乗り越えて完成した作品がいよいよ皆さんに届くんだなと思うとしあわせな気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せる山崎に対して、大林監督は「彼女は『この空の花 長岡花火物語』で高校生集団のひとりとしてデビューしたんですが、『わたしを(大林監督の妻でプロデューサーの)恭子さんの秘書にしてください。映画人としていろいろと知りたい』と言って。恭子さんのそばにずっとついていました。そして次回作では主役のひとりとして演技をしてくれたんです。ただ彼女はチャーミングなのに、反っ歯(そっぱ)なのを気にしていて。治療した方がいいでしょうかと言うんで、やめなさいと。それがあるから君なんだ。それを治療して人並みにきれいになってしまったら君じゃない。個性とは欠点をチャーミングに見せることが良い個性になるんだよと言いましたら、相変わらず磨きをかけたいい反っ歯でいてくれています」とコメントして会場を笑わせながらも、「いつの間にかチラリチラリとお色気も発散する女優さんになりましたね」と語りかけた。
そして「わたしも穂香ちゃんの矢作問題について思い出しました」と続けたのが常盤。「『花筐』だとみんな読めないから、どうしよう。ひらがなにするかローマ字にするかと言っていたんですが、恭子さんが『(映画がヒットして)みんなが呼ぶようになれば(読み方は)伝わるのよ』とおっしゃっていて。なるほどなと。穂香ちゃんもそういうことなんだと思い聞いていました。でも皆さんのお話を聞いていると、監督が僕の分身だと言っていることが分かるな。みんなが監督と接する中で、自分の中に、心にストックした思いを今、皆さんに伝えて、それをまた多くの方に伝えてくださるのかなと思うと本当にいい初日になったし。そうそう、話は変わっちゃうんですけど、それから……ああ、言いたいことがありすぎる!」とあたふたしてみせ、会場を沸かせた常盤は「そういえばこの映画の前売り券が有楽町スバル座では一番、前売り券が売れた作品なんですって」と報告し、会場からは祝福の拍手が送られた。
そんな常盤のコメントを柔和な表情で聞いていた大林監督は「こんなすてきなお嬢さんが分身だと言ってくれてね」と切り出しつつ、「大林組ではマネジャーさんが一緒に来るのはご遠慮いただいているんです。映画に生きてほしいので。もちろん俳優さんは大事な商品ですから、ついていきたい、守りたいという気持ちは分かります。貴子さんもそうでした。18歳の時から大林組に出たいと言ってくれていましたが、大きな事務所だったので、ご縁がなかった。それが20年後、長岡花火の下で会いまして、『わたし、大林監督の映画に出たくて、現場にひとりで行く練習をしているんですよ』と。恭子さんが『なんてかわいいことを言うの。次の映画の主役は決まりましたね』と言っていましたね」と述懐。
さらに北海道で行われた舞台あいさつの時に、常盤が観客を見送っていた、というエピソードを紹介した大林監督は「気付くと隣に、舞台衣装の薄着の衣装を着た貴子ちゃんがいて。そうしたら、(観客から)写真やサインをしてくださいと言われますよね。その後、2時間くらい彼女は残ってくれた。そして終わった後に感極まって泣いてしまったんです。(寒い中で)かわいそうなことをさせたかなと思ったら、『わたしはこの今、モデルじゃない。タレントでもない。女優ですらない。ひとりの人間として、芦別の皆さんとお会いして、抱き合えて良かった』と。そうやって感動してくれたことこそ、僕の分身である俳優さんたちだなと思ったんです」と付け加えた。
そして大林組の常連俳優である村田が「大林監督に出会った俳優はみんな影響を受けていて、みんなしあわせですよ」としみじみコメントする通り、村田が“大林宣彦一座”と紹介する俳優陣が次々と大林監督に感謝の言葉を述べる日となった。そして帰り際は、スクリーンに向かって全員が手話で「I Love You」のポーズ。初日を無事に迎え、映画の神さまに感謝の思いを伝える登壇者たちだった。(取材・文:壬生智裕)
映画『花筐/HANAGATAMI』は全国公開中