アカデミー賞、作品賞受賞のキーワードは「重要性」 #TimesUpの影響は?
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第90回アカデミー賞授賞式が目の前に迫った。今年の特徴は、誰も作品部門をきっぱり予測したがらないことだ。昨年、ほぼ全員が、作品部門は『ラ・ラ・ランド』で決まりだろうと言っていたのとは、大きな違いである(昨年の争点は、主演男優部門がケイシー・アフレックか、デンゼル・ワシントンか、だった)。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
大方の予測は、社会性を反映させながら異種間の愛をつづった『シェイプ・オブ・ウォーター』か、残酷な形で娘を殺された母親が怒りのあまり三つの赤い看板を使って警察に喧嘩を売るという辛辣なコメディー『スリー・ビルボード』か、というところである。2月前半は『シェイプ~』が若干リード気味だったが、2週間前ごろから『スリー~』が再び盛り返した。先月18日に英国アカデミー賞を作品賞など最多5部門で受賞したことに加え、フロリダの高校での銃乱射事件がきっかけで起こった生徒たちによる怒りの抗議運動が、映画をよりタイムリーなものにしているのである。実際フロリダには、銃規制を訴える、映画に出てくるのと同じような三つの赤い看板広告がお目見えしたりもした。
一方で『シェイプ~』には盗作訴訟というネガティブな出来事があった。だが、オスカー投票時期を狙った訴訟に業界人は反発も感じているのか、このことはあまり大きく騒がれておらず、投票者もそれほど意識しないだろうと思われている。
だが、この二つのどちらかで決まりだとも、誰も断言はしない。『ゲット・アウト』大穴説も、消えてはいないのだ。先月半ばに北米公開された『ブラックパンサー』(メインキャストと監督は皆黒人)が社会現象にまでなる記録的な大ヒットとなったことも、主演と監督が黒人で、人種差別にユニークな角度から迫った『ゲット・アウト』の重要性を投票者にあらためて認識させた可能性がある。
この「重要性」というのは、近年のオスカーにおいてキーワードだ。2年前、『スポットライト 世紀のスクープ』と『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が作品賞を争った時は、両作品とも、これがいかに現代の問題につながる重要な映画かを強調するテレビスポットをばんばん流した。昨年の受賞作品『ムーンライト』(ゲイの黒人男性の成長物語)は、お金がなかったせいでほとんど広告はしなかったが、結局、恋愛ミュージカルの『ラ・ラ・ランド』より重要だと感じさせたことが勝利につながったと考えられている。そしてセクハラや男女差別撲滅を訴える「#TimesUp」で盛り上がる今年は、青春映画である『レディ・バード』にも、唯一の女性監督作という部分で、政治的意味合いがもたされているのだ。
ところで、その「#TimesUp」だが、オスカーではゴールデン・グローブ賞授賞式の時のようにドレスが黒だらけになることはない。オスカーはさすがにオスカー。最高の晴れの場では、女性は誰だって自分が最高に美しく見えるドレスを着たいものだ。また、銃規制問題が最高の関心事である今は、受賞スピーチも、女性の権利一色になることはないと思われる。政治的スピーチはそれでもあるだろうが、昨年の封筒取り違えを、ホストのジミー・キンメルがどんなジョークにしてみせるのかも楽しみだ。
第90回アカデミー賞授賞式は3月5日(月)午前8時30分よりWOWOWプライムにて生中継