賀来賢人、変キャラ確立の裏にあった思い
大ヒットした前作から2年、完結編となる『ちはやふる -結び-』に最強かるた名人・周防久志役でシリーズに初登場した賀来賢人は、役の面白さに惹(ひ)かれて参加を決意したというが、その裏にはここ数年の研鑚があった。
圧倒的な強さを誇る周防は、とても声が小さいうえに、どこか佇まいが奇妙で、しかも甘いもの好きなかわいいところもあり、多くの登場人物の中でもひときわ異彩を放っている役どころ。賀来は「すごく人間っぽい役で、演じるのは役者冥利に尽きました」と満足そうに語る。
だが賀来といえば、かつては正統派イケメンとして多くの青春ドラマに出演していた俳優。「異彩を放つ」役がハマるタイプではなかった。転機は何かと本人に聞くと「舞台です」ときっぱり言い切った。
賀来は2011年、映画『銀魂』シリーズなどの福田雄一が脚本と演出を担当した舞台「スマートモテリーマン講座」出演を皮切りに、多くの舞台を経験した。最初は「化け物みたいな俳優さんがたくさんいて、『すごいなー』と見ていましたが、だんだん悔しくなってきて。『この人たちみたいになりたい』って思うようになった」と心境が変化し、とにかく滑ってもできることを試し続けたという。
その結果は、2017年のテレビドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」で広く一般に認知された。オーバーアクションと変顔など、変幻自在な姿を見せて視聴者を驚かせたのだ。「そういう経験が周防さん役にも結び付いたことは間違いないです。何一つ、無駄なものはなかったと思います」と自信を秘めた笑みを浮かべた。『ちはやふる -結び-』でもその個性的なキャラクターはいかんなく発揮されており、賀来ならではのスパイスの効いた役どころを堪能できる。
賀来が演じた周防の言葉で印象深いのは「一瞬を永遠に留められることができるということを忘れないで」というセリフ。美しく詩的な言葉がたくさんちりばめられている『ちはやふる -結び-』は、競技かるたに懸ける高校生たちのかけがえのない日々を瑞々しく描き出した青春映画だが、そこには賀来が積み上げてきたものも“永遠に留め”られている。この先、賀来がさらなる進化を見せてくれるだろうことは、想像にかたくない。(取材・文:早川あゆみ)
映画『ちはやふる -結び-』は3月17日より全国公開