映画発祥の地・京都の映画文化を絶やすまいとする試み
映画で何ができるのか
京都市上京区の出町柳に昨年12月28日にオープンした映画館+カフェ+書店の複合施設・出町座が、ミニシアターながら開館約2か月半で来場者が延べ1万人を超える好調な滑り出しとなっている。出町座の誕生は、庶民的な店舗が並ぶ出町桝形商店街の人の流れも変えたようだ。(取材・文:中山治美)
映画館だけではない、カルチャー発信基地
出町座は、豆大福で知られる和菓子店・出町ふたばから徒歩1分の出町桝形商店街の中ほどにある。総菜店や青果店が並ぶアーケード商店街を進むと、ひときわ目立つ赤いファサード(建物の正面)の店舗と出町座の看板。扉を開けると目に飛び込んできたのは、カフェ「出町座のソコ」のカウンターと空間を囲む書店CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)の書籍たち。ここは映画館だけではない。人が集うカルチャー発信基地だ。
運営はシマフィルム株式会社(本社・京都府舞鶴市)。2013年4月より立誠シネマプロジェクトと題し、京都の町中に残っていた元立誠小学校の教室の一部を活用した映画館・立誠シネマの経営と、京都映画人発掘育成プロジェクト・シネマカレッジ京都を京都市などと共に行ってきた。しかし京都市の元立誠小学校跡地活用計画により、2017年7月30日に事業終了するに至った。
その精神を受け継ぎ、新たに誕生したのが出町座だ。出町座の田中誠一支配人は「場所は熟考しました。出町柳は他のミニシアターとの商圏と重ならず、京阪電鉄も通っておりアクセスもいい。周辺には京都大学や同志社大学があり学生が多く、近くには人気劇団・地点の拠点もあり、ここから新たな交流の場が作れるのではないかと考えました」と説明する。
京都の新しい観客と出会うニュー八王子シネマの名残り
映画館は地下(42席)と2F(48席)の2スクリーンある。建物が元薬局をリノベーションしたものなら、劇場の扉や上映機材、券売機、椅子といった備品は、2017年1月に閉館したニュー八王子シネマから引き継いだものと、あちこちに多少の年季と味を感じる。しかし建物に吸い寄せられるように年配者から学生まで幅広い観客がやってくる。
出町座の誕生は、地元密着型の商店街にも影響を与えているようだ。世の流れで個人店舗の経営はどこも厳しく、同商店街でもシャッターが降りたままの店もある。そこに出町座が誕生し、後に続くように隣には古書店もオープン。田中支配人は近隣の店主から「京都市以外の近隣からのお客様が増えた」といううれしい声をよく聞くという。
劇場持ち込み可能のドリンクとフードも販売している出町座のソコでは、商店街の店舗と企画したスナックも販売している。田中支配人も「これからも商店街との交流を深めていきたい」と語る。
京都発の映画製作の情熱は絶やさせない
また3階のフリースペースでは、上映作品や書店と連動したギャラリーやトークイベント会場としての活用のほか、引き続きシネマカレッジ京都を実施し映画人の育成を行い、シマフィルムが京都発の映画製作につなげていきたいという。
京都市内にはミニシアターが3館あったが、そのうちの一館である京都みなみ会館が3月31日で閉館し、近隣での移転再開を目指している。京都は日本で初めて映画(シネマトグラフ)の試写実験に成功した映画発祥の地(現在の立誠小学校跡地)があり、かつては多くの撮影所を抱え、そこから数々の名作が生まれた場所でもある。京都の映画文化を絶やすまいとする関係者の努力が続けられている。