母の日にどうやって感謝の気持ちを伝えればいい?ヒントは映画の中に!
「母の日」とはいっても、あらためて母親に感謝の気持ちを伝えるのは、意外と難しいもの。「いつもありがとう」だけじゃなく、もっと深い気持ちを伝えたい……。そんなときにヒントをくれそうな映画を、母親のタイプ別にピックアップしてみた。(文:桑原恵美子)
愛情深い母に…「ママはキラキラ輝いて、周りを照らしている」
『母の眠り』(1998)
主人公は、ニューヨークでジャーナリストとして刺激的な毎日を送っているエレン(レニー・ゼルウィガー)。彼女は子供の頃から、博学な大学教授の父(ウィリアム・ハート)を崇拝する一方、専業主婦で知的な向上心が感じられない母(メリル・ストリープ)を冷めた目で見ていた。だがある日、母親が不治の病であることを知らされ、自宅に戻り看病をすることに。看病をエレンに押し付け、以前と変わらぬ冷静さで講義を優先する父に、エレンは次第に失望していく。だが母の死がいよいよ近づいたとき、仕事で行き詰まった父は酒浸りになってエレンに語る。「初めて会ったとき、ママはキラキラ輝いて周りを照らしていた。このわたしさえも。その輝きが消えるなんて」。父の自信を支え輝かせていたのは、実は母の愛だったとエレンは気付く。
死を目前にした母が、頑なな性格のために恋人とうまくいっていないエレンの将来を案じ、最後の力をふりしぼって告げる言葉が感動的だ。「聞いて。幸せになるのは本当に簡単よ。今あるものを愛するの。今、自分の手の中にあるものを」。
苦労続きだった母に…「ありがとう、これからは、わたしがいたからできなかったことを全部して」
『あやしい彼女』(2016)
貧しさの中、女手一つで娘の幸恵(小林聡美)を育て上げた73歳の瀬山カツ(倍賞美津子)はある日、ふと入った写真館でなぜか20歳の若々しい姿(多部未華子)に戻り、大喜び。何も知らずカツに恋してしまった孫とともに、若い頃にあきらめた歌手への道を歩みだす。だがデビュー直前、孫が事故にあい、救うためにはもとの年齢の戻らなければならないという究極の選択を迫られる。そのとき、すべてを知った幸恵は母に、「今のままでいてほしい」と告げる。「今度は、長生きする人と結婚して、わたしがいたからできなかったことを全部して」という幸恵に、カツは泣きながら答える。「バカ言うんじゃないよ、わたしは何度生まれ変わっても、寸分たがわずこの人生を生きるよ」「そしたらまたお前のお母さんになれる。誰よりもお前がわたしを幸せにしてくれるんだ」。
この映画は韓国で製作された『怪しい彼女』のリメイクで、このシーンのセリフもほぼ同じ。韓国版では息子の設定で、もうおじさんになっている息子が不器用に告げる感謝のセリフも感動的だった。しかし日本版娘は、娘が母親と同じシングルマザーという設定なので、お互いの気持ちをさらに深く共有できる関係に描かれている。親子を超えて、女同士、母親同士としての絆も、固い抱擁から伝わってきた。
プレゼントに遠慮がちな母に…「これは母さんのお金だ。僕からの贈り物だよ」
『マイ・レフトフット』(1989)
貧しいレンガ職人の父親のもと、22人兄弟の10番目の子供として生まれたクリスティは、重度の脳性小児麻痺で言葉も話せず、左足しか動かせなかった。だが母のブリジット(ブレンダ・フリッカー)は決してあきらめず、息子が左足だけで絵を描き始めると、その才能を信じ励まし続ける。成長したクリスティ(ダニエル・デイ=ルイス)はリハビリで言葉を話せるようになり、画家として大成功をおさめていくが、失恋の痛手から自殺を企て、絵を描くこともやめてしまう。そんな彼を見たブリジットは突然、庭にレンガを積み始める。「部屋(アトリエ)があれば、お前もまた絵を描くだろう」「本当に強い男になるんだよ、母さんはあきらめないからね」。
そんな母の励ましで立ち直ったクリスティは、母への感謝をあらわすために、一計を案じる。兄弟みんなで集まったときに「アイスクリームが食べたい、買ってきて」と大騒ぎ。子だくさんで貧乏な一家にとってそれは大変な贅沢だったが、ブリジットは「特別だよ」としぶしぶ小銭入れの缶を開ける。するとそこには見たこともない大金が。クリスティが絵で稼いだお金だった。呆然とする母親をとりまき、笑いながら拍手するクリスティと兄弟たち。感謝の気持ちをお金であらわすのは気が引けるとき、そして遠慮がちな母に受け取ってもらえそうにないとき、参考にしたいサプライズ演出だ。
心配性の母に…「ありがとう、もう大丈夫だよ」
『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)
夫の一浩(オダギリジョー)が失踪してから1年後、幸野双葉(宮沢りえ)はがんで余命2か月と告げられる。彼女は自分が生きている間に、愛する家族が独り立ちできるようにすることを決意。学校でいじめられている一人娘の安澄(杉咲花)に、逃げずに立ち向かうよう説得する。最初「おかあちゃんは何もわかってない」と激しく抵抗していた安澄だが、いじめが頂点に達したときに双葉の言葉がよみがえり、決死の反撃に出る。級友たちが度肝を抜くその行動が成功し、いじめがやんだとき、安澄は双葉に泣きながら告げる。「わたしにも、おかあちゃんの遺伝子、ちょっとだけあった」。
後半、隠されていた家族の秘密が次々に明かされていくが、双葉は全力でぶつかって、自分が亡くなった後も幸せに生きていける道筋をつけていく。ついに力尽き、言葉も発することができなくなった双葉に、安澄は泣きながら告げる。「ありがとう、もう大丈夫だよ」。それを聞いて微笑む双葉。彼女にとって、それは最高にうれしい言葉だったに違いない。