『ダ・ヴィンチ・コード』原作者、映画化に迷いもあった
映画『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの原作者でベストセラー作家のダン・ブラウン氏が、最新小説「オリジン」の発売を記念して、29日、都内で講演会を行った。すでに同シリーズの3作が映画化されているブラウン氏は「映画化には、正直、確信が持てなかった」と不安があったと明かしつつも、サービス精神たっぷりに『ダ・ヴィンチ・コード』の撮影現場での面白エピソードで、聴衆を沸かした。
トム・ハンクスがラングトン教授に!『ダ・ヴィンチ・コード』【映像】
宗教象徴学者ラングトン教授が主人公のラングトンシリーズで知られるアメリカの作家ブラウン氏は、1998年にデビューし、現在53歳。シリーズ第1作「天使と悪魔」から「ダ・ヴィンチ・コード」「ロスト・シンボル」「インフェルノ」と続く4作の日本国内発行部数は1,720万部超という人気ぶり。トム・ハンクスがラングトンを演じ、ロン・ハワードが監督した映画版には『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』『インフェルノ』の3作がある。
「映画化の話をもらった際の気持ちは? と、よく聞かれるので、聞かれる前にお話しましょう」と話し始めたブラウン氏。「トム・ハンクスやロン・ハワードと仕事する贅沢な経験ができるなんて、思ってもいませんでした。でも小説の良さって、読んだ人がいろいろ想像することだから、ラングトンがトムに固定されてしまうのはどうだろう? シリーズ完結まで、映画化はやめた方がいいかと思ったこともあった」と作家としての迷いがあったと語り、「最終的に、彼らに説得されてハリウッドに飛び込んだ」と映画化に踏み切ったという。
『ダ・ヴィンチ・コード』の撮影で訪れたパリのルーヴル美術館では「深夜2時、休憩時間に館内を歩いて、ふと佇んだ目の前に『モナ・リザ』が微笑んでいたり、遠くの通路を僧侶が突然走り抜けたりと、一生に一度あるかという幻想的な経験をしましたし、『その死体を3フィート、左に動かせ』とか『カラヴァッジョの絵に血をつけるな』とか、世界の別の場所ではありえない(スタッフの)会話が聞けたことも刺激でした」と振り返る。
さらに「スコットランドのエディンバラで撮影終了のパーティーがあったのですが、正装のキルト(スカート状の伝統衣装)着用が義務で、トムにスカートをはかせてもらったんです。こんな経験をすると思っていたかい? って、ロンが聞くので、『ダ・ヴィンチ・コード』を書くところから全部出来上がっていたんだ、シナリオ通りだって、答えました。ジョークですけど」と笑う。
また、ブラウン氏の講演のあと、トークセッションの相手に登壇したジャーナリストの池上彰氏が「今後、ラングトン教授が日本を訪れることはありますか?」と尋ねると、彼は「日本については深く尊敬しているからこそ、自分に知識が足りないと知っているし、本を書くなら、勉強しなければと思います。新作(「オリジン」)では宗教と科学技術の対立や、人工知能(AI)によって、古来の宗教や哲学がどう変わらなければならないかを追っています。でも日本で科学と宗教は、それほど対立していないし、共存しているように見えます。宗教と科学の橋かけになれるのかもしれない。まだ勉強不足の意見ですが」と独自の見解も披露していた。
ラングトンシリーズの第5作となる新作「オリジン」は、「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という人類最大の謎を解く映像を公表しようとしたラングトンの元教え子が発表直前に暗殺される事件を発端に、ラングトンがAIの助けを借りて、謎に迫って行くというストーリー。(取材・文/岸田智)
小説「オリジン」(上・下巻)はKADOKAWAより各1,800円(税抜き)で販売中