観察映画の想田監督、ビジネス化する米大学アメフトの実情に迫る
全米最大のアメリカンフットボールスタジアムを題材にしたドキュメンタリー映画『ザ・ビッグハウス』の初日舞台あいさつが9日、都内で行われ、製作・監督・編集を務めた想田和弘監督が登壇した。
日本中が日大アメフト問題に揺れる中、絶妙すぎるタイミングに「あれは僕が仕組んだものです」とジョークを飛ばした想田監督は、日米におけるカレッジフットボールの“在り方”の違いについて熱く語った。この日は、共同監督を務めたマーク・ノーネス、テリー・サリスも出席した。
本作は、映画の着地点を決めず、ナレーション、BGM、予定調和などを全て排するという独自のスタイルで注目を浴びるドキュメンタリー作家・想田監督の “観察映画”第8弾。10万人以上の収容人数を誇るミシンガン大学のアメフトチーム「ウルヴァリンズ」の本拠地ミシガン・スタジアム(通称:ザ・ビッグハウス)を舞台に、想田監督と13人の学生を含めた17人の映画作家がそれぞれ興味を持った人々や場面、出来事を撮影し、現代アメリカの縮図とも言える巨大スタジアムの全貌を描き出していく。
初日のあいさつもほどほどに、想田監督は、悪質タックルから波及した一連の日大アメフト問題に言及。「この映画が公開されるちょっと前に、変なカタチでアメフトが話題になってしまいましたが(苦笑)。あの問題をいろいろ観ていると、アメフトというスポーツが、もはや部活をこえて、大学のイメージ戦略の一部になっている、という背景がある。だから、『絶対に勝たなければならない』という圧力の中で、ああいう事件が起きてしまった」と嘆く。
ところが、アメリカのカレッジフットボールは、 その“イメージ戦略”をも超えて、もはや“巨大ビジネス”の域に達していると想田監督は言う。「ミシガン大学は州立ですが、税金はわずか16%しか予算として使われていないので、それ以外は全て自前で調達しなければならない。だから、この『ビッグハウス』と『ウルヴァリンズ』が大学の経済を支える柱になっている。つまり、1つの巨大ビジネスとして、チケット収入やテレビの放映権、さらには寄付金なども集めることになるわけです。中には30億円も寄付される方もいて……(場内ざわつく)、アメフトなしでは大学の経営は考えられないところまで来ている」と明かす。
ただし、チームが強い年は寄付が多く集まるが、弱い年は集まらないという、アメリカならではのシビアな一面も。それゆえに、勝利を義務付けられた現ジム・ハーボー監督の年俸は、なんと9億9,000万円にまで跳ね上がったのだとか。この金額は、ほとんどプロ契約に等しいそうだが、気付いてみれば、「ミシガン大学のアメフトチームは、日本のプロ野球チームをも超える経済規模になっている」と想田監督は語る。
まさに、アメリカ的な経営手法や社会の縮図が浮き彫りとなった本作。軍と手を組んで派手にイベントを盛り上げるアメリカ式のやり方に、国によっては批判を浴びせるところもあるそうだが、スポーツと大学ビジネスの在り方について、改めて考えをめぐらす格好の作品と言えるかもしれない。(取材・文:坂田正樹)
映画『ザ・ビッグハウス』はシアター・イメージフォーラムで公開中