「デジタル修復」の正解は過去にある 修復の担当者が語る
1日、東京・角川シネマ新宿で開催中の名匠・小津安二郎監督の名作を4Kデジタル修復版で上映する特集企画「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」に、今回のデジタル修復に携わった株式会社IMAGICAの中村謙介、同社・水戸遼平の2人が登壇。デジタル修復の作業工程を説明する「スペシャル講座」を開いた。水戸さんは「デジタル修復の正解は、必ず過去にあります。その映画公開当初の一番いい画面を再現するのが、我々の目指すところ」と熱く語った。
「デジタル修復の工程には大きく5つの段階があります」と説明する水戸さん。デジタル化の元になる「1.素材フィルムの選定」に始まり、選定したフィルムの反りや破れ、欠けの「2.補修」を行なったのち、フィルムスキャナーという専用機で「3.デジタル化」。その後「4.デジタル修復」という工程で古いフィルムにあった傷やゴミ、画面の揺れ、不安定な明滅などのノイズをデジタル的に除去し「5.カラーコレクション」という色や質感の統一をみる仕上げ作業で完成となる。
工程ではまず「1.素材フィルムの選定」が重要で「原版のオリジナルネガや、複製のマスターポジにできるだけあたり、フィルムの製作年や世代分析をして、50年前、100年前の映画が、本来どういう形だったか探りあてていきます」と水戸さん。特定の年代のフィルムでは現在劣化が深刻で「今、修復しておかないと、後世に残らなくなる映画がたくさんある」と警鐘を鳴らした。
「4.デジタル修復」の専門家である中村さんは「『東京物語』はSD時代、HD(2K)、今回の4Kと、3回修復しました」と話し「昔は半年かけてゴミしか取れないこともありましたが、最近の技術進歩で自動的にゴミ除去するアプリケーションが開発されて。でも最後はやはり人間の目で確認しないと。『浮草』の中村鴈治郎さんと京マチ子さんが雨中で言い合うシーンなど、雨粒をコンピュータがゴミと判断して消しちゃうんです。あのシーンで雨がなくなったら、とんでもないことになりますね」と苦心談も。
さらに中村さんは「画面の揺れを止めるとき、動かない場所をコンピュータに指定するんですが、『東京物語』では笠智衆さんが全然動かないので、基準に設定してみたら、揺れが止まったことがあって。これはネタですが(笑)」と会場を笑わせていた。
「古い映画を残して、たくさんの人に観てもらうことを一生の仕事としてやっていきます」と話した中村さん。水戸さんも「こんなにきれいになったと修復が話題になるのは私たちの本意ではなく、オリジナルに近い修復を目指すのが目標ですが、デジタル修復された作品は新しい新鮮な目でも観ていただけるのではないか。若い層にも新しい映画として観てもらえれば」と語りかけ、会場から大きな拍手が起こっていた。
小津監督の生誕115周年にあたる今年。カンヌ国際映画祭では『東京物語』が、ベルリン国際映画祭では『東京暮色』が、それぞれの4Kデジタル修復版がワールドプレミア上映された。本特集上映では、その代表作『東京物語』や『東京暮色』など「小津調」と呼ばれる戦後の小津スタイルを確立した『晩春』や『麥秋』、さらに『お茶漬の味』『早春』、今回唯一のカラー作品『浮草』の全7作の4Kデジタル修復版を取り上げる。(取材・文/岸田智)
「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」は7月7日まで東京・角川シネマ新宿にて上映中 その後、大阪、名古屋、福岡、兵庫、宮城、長野で上映予定