NYで樹木希林を直撃!作品の選定基準は主演俳優
ニューヨークのジャパン・ソサエティーで7月29日(日)まで開催されていたイベント「ジャパン・カッツ!」で上映された映画『モリのいる場所』について、主演の樹木希林がインタビューに応じた。
本作は、亡くなるまでのおよそ30年にわたり、庭の動植物を観察して描き続けた洋画家・熊谷守一(山崎努)をモデルに、晩年の彼と妻の秀子(樹木)のある夏の一日を描いている。『横道世之介』の沖田修一監督がメガホンを取った。
今回、「ジャパン・カッツ!」で、国際的に活躍している日本人俳優に与えられる賞“Cut Above Award for Outstanding Performance in Film”を受賞したことについて、「日本ではわたしは後期高齢者で、じっとしていて良いですよという類いのところにいます。こんな派手なところで、賞をもらえるような立場ではなくて、むしろわたしが選考して、次の(若手の)人にはこれ(賞)を! という立場の人間なんです。ただ、この(受賞する)話を聞いたときは『エェ~!』と思いましたけれど、頂けるものは頂いておこうという欲もありました」と樹木節を交えながらも感謝を表した。
共演の山崎努とは、同じ文学座出身にもかかわらず、一度も共演経験がなかったそうだ。「役に入ったら山崎さんを意識することはないんですが、この年で山崎さんの奥さんをやることになるとは想像もしませんでした。山崎さんは正統派の役者として、ずっと王道を歩いてきた方です。一方、わたしはどっちかと言うと、映画だけでなく、テレビをやったり、CMをやったりで、良い演技をしようというのはなかったから、(山崎さんとは仕事で)出会うということはないと思っていました。ところが電話が来て女房役を依頼され、『夫はどなたがやるんですか?』と聞くと、山崎さんということで、これはぴったりだなぁと思って、『奥さんになります』と言いました」。
守一と秀子の間には5人の子供がいたが、(貧困で医者にかかれずに)そのうち3人が亡くなり、守一も一度、脳卒中で倒れている。今作はそんな過去を経た晩年の彼らを描いているが、どんな準備をして役に臨んだのだろうか。「秀子さんには、守一さんをとても尊敬しているところが一つあって、それは(彼の)絵を描く力だと思うんです。秀子さんも、絵を描きたいと思って田舎から出てきて、そして絵描きと一緒になって、そこから絵を描く人たちといろいろな付き合いがあるうちに、彼女の絵を見る目が長けてきたんじゃないかとわたしは想像してみました。だから、旦那が作り出すものに対する尊敬はあって、あとは何もいらない、大変なことは自分が引き受ける覚悟で居ようという心持ちで、この役をやりました」。
本作以外にも今年はすでに『万引き家族』が公開されており、今後も『日日是好日』(10月13日日本公開)が控えるなど、多忙な樹木。出演作品を選ぶ基準を聞いてみると、「憎たらしいことを言うと、主役が(残念な声で)『あぁ~』と思うとやらないです。主役が良いなぁと思うと、やります。大体、台本を読んで(決める)ということはほとんどないです。どうしてだろう、時間がないのかぁ、いつも即決なんですよ。ファックス1枚(企画や出演者を記したもの)でOKなんです」と意外な回答が返ってきた。
「(女優業を)60年もやっていると、様子がわかるんです。わたしには、マネージャーもいないし、事務所もありません。ファックス1枚で、ギャラ交渉も自分でします。どういう俳優が出て、自分を俯瞰(ふかん)で見て、今自分が世の中でどのくらいの位置にいるのか、見誤らないようにギャラ交渉しています」と全て一人でやっていることを明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)