サンセバスチャン映画祭が認めた日本の新鋭、奥山大史監督
スペインで開催中の第66回サンセバスチャン国際映画祭ニュー・ディレクターズ部門で奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』が上映され、18歳から25歳までの若者審査員約300人の投票によるユース賞で8.07点(最高10点)を獲得し、上映作22本のうち2位に付ける好評を博している(9月28日現在)。第19回東京フィルメックスで特別招待作品として日本初上映されることも決まり、幸先の良いスタートを切った。
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同作は地方のミッション系の小学校に転校した少年・ユラが、慣れない学校の習慣に戸惑いつつも友情を育み、ある出来事をきっかけに神様とは何かを深く考えていく成長物語。お笑い芸人であり、本作の英語字幕も手がけたチャド・マレーンがユラにしか見えない小さなイエス様を演じており、小さな願いをかなえたり、道案内もするユーモラスなシーンが流れると、その度に場内は大きな笑いに包まれた。最後はスタンディングオベーションも出る拍手喝采となった。
奥山監督は1996年生まれ。本作は大学卒業制作作品で、初長編監督作品となる。だがその存在は、撮影監督としてすでに自主映画界で注目されていた。現役大学生監督・松本花奈の『過ぎて行け、延滞10代』(2017)や本年度ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード入選作の小川紗良監督『最期の星』(2018)の撮影を担当。さらにGUのテレビコマーシャルも手がけるなど、在学中からプロとして活動していた。
だがもともとは監督志望で映画美学校にも通い、お笑いコンビ「FUJIWARA」の原西孝幸主演で短編『白鳥が笑う』(2015)を制作。続いて大竹しのぶ出演の短編『Tokyo 2001/10/21 22:32-22:41』(2018)を制作。これが全て「写ルンです」で撮影した意欲作で編集に時間を要したため、その完成を経て、大学卒業ギリギリの今冬に長編に着手したという。
奥山監督は「映画を作りたいけど当時の自分はまだ何も生み出すことができない。でも映画の現場にかかわっていたかったので撮影監督として参加し、力を蓄えていたという感じです。でもその時に得たことは大きくて、今回の作品に参加してくれたスタッフとも出会うことができました。監督としてより撮影でかかわる方が、その照明や録音スタッフがどれくらい優秀か、組めば分かりますから」と語る。
本作は自身の少年時代の体験がベースとなっており、脚本・撮影・編集も兼ねている。時代を少し前に設定していることを表現するため、スタンダードサイズだったテレビ画面と同じく画面比率を4:3にしてノスタルジックに。小さなイエス様が登場することが非現実的になり過ぎないよう、芝居や美術、食卓シーンのメニューに至るまで徹底的にリアルにこだわっている。
選出した本映画祭の選考委員のロベルト・クエトは「友情や信仰といった人生において重要なことが丁寧に描かれていた。何より神の存在意義については、カトリック教徒であるわれわれにとっては誰もが一度は通る問題。それをユーモラスに描いている点に感心しました。なぜならキリストはわれわれにとってはアイコンですからね。その彼が走ったり、湯船に現れたりするのがおかしくて。この作品との出会いは衝撃で、彼は将来を約束された監督と言ってもいいでしょう」と太鼓判を押している。
是枝裕和監督を師と仰ぐ奥山監督は、“映画祭にとって大事なのは字幕と通訳と海外セールスのチーム作り”の教えにのっとり、すでに日活が海外セールスに参加することも決定している。そして国内公開に向けても話し合いが進められているという。
同映画祭のニュー・ディレクターズ部門は1985年の33回に創設され、ジャン=ジャック・ベネックス、ウォルター・サレス、イザベル・コイシェらを発掘。しかし欧米やラテン系に押されて、これまで日本人監督が選ばれたのは『水の中の八月 Fishes in August』(1998)の高橋陽一郎監督、『PASSION』(2008)の濱口竜介監督、『エンディングノート』(2011)の砂田麻美監督、そして奥山監督とわずか4人目しかいない。久々にサンセバスチャンが認めた日本の新鋭がどのような道を歩むのか注目だ。
なお、本作が対象となる、5人の国際審査員によるニュー・ディレクターズ賞およびヤング審査員によるユース賞の結果は現地時間29日夜に発表される。(取材・文:中山治美)
第66回サンセバスチャン国際映画祭は現地時間9月29日まで開催
第19回東京フィルメックスは11月17日~25日、東京・有楽町朝日ホールほかで開催