石井裕也、新作は少女マンガ原作『町田くんの世界』6月7日公開
安藤ゆきの人気コミック「町田くんの世界」の映画化作品で、『舟を編む』『バンクーバーの朝日』などの石井裕也監督がメガホンを取ることが明らかになった。映画の公開は6月7日。
昨年5月に発売された単行本最終7巻の帯で映画化が発表されていた「町田くんの世界」。「このマンガがすごい!2016」オンナ編で3位入賞、第19回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で新人賞に輝いたほか、同作における表現を評価されて安藤が第20回手塚治虫文化賞の新生賞を受賞した。物語では、アナログで不器用、勉強も運動も不得意ながら人間が大好きで、周囲の人々からも愛されている男子高校生・町田くんの日常や恋が描かれていく。
監督を務める石井は、近年では小説を実写化した『舟を編む』(三浦しをん原作)や『ぼくたちの家族』(早見和真原作)、ドラマ「乱反射」(貫井徳郎原作)、最果タヒの詩集をもとにした『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などを手掛けているが、少女マンガ原作の作品を監督するのは、本作が初めてとなる。
そんな石井監督は「少女マンガ原作だからこそ自由を得られた」という感慨もあったそうで「(原作コミックでは)人を好きなることとか恋だとか、正直いうと30を超えた男からしたら軽んじてしまいがちなものを丹念に描いていくわけですよ(笑)。でも、執拗に人を好きなる気持ちを描くことがおもしろくなってきたんです」と語る。
「口に出すのもはばかられるくらい恥ずかしいこと、言葉では説明のできないこと、本当に映画で撮るべき題材はそれなんだなと。少女マンガとして、そういったことを恥ずかしげもなくやれていることがすごいなと思いながら、自分もそれに乗っかりたい、という思いがあったんですね。いま自分が真に作りたいものを作れたという手ごたえがあります」。
また、原作も類型的な少女マンガではないとも、プロデューサーの北島直明は指摘する。「町田くんは『好き』ということは知っているけれど、恋愛を知らない。すごく特異性をもった存在。一般的な少女マンガであれば、登場人物たちは好きと嫌いがわかっている前提があって、フォーマットがあるもの。『好き』という前提がない町田くんという材料を、石井監督がどう調理するか、僕自身がとても楽しみだったんです」。
物語では、主人公の町田くんとヒロイン・猪原奈々の恋模様を中心に、聖人のような町田くんや同じ学校の高校生、そして卑俗な世界に暮らす大人たちとの邂逅などを経て、予想外な結末へと進んでいく。そこでは石井監督らしい笑いと哀しみが表裏一体になったようなストーリーが展開していくことになるという。
石井と共同で脚本を担当したのは、『たまこちゃんとコックボー』などの監督作もある片岡翔。石井監督は「映画全体として自由度が高い」と表現しているが、北島プロデューサーも「理路整然とした部分は片岡さんが整えて、石井監督がストーリーに混乱というかアレンジを加えてくれて、バランスのとれた仕上がりになった」と称賛する。
また、原作者の安藤からは以下のようにコメントが寄せられた。「一人の人間から生まれた小さな作品がたくさんの人が構築する大きな企画になっていくということは、わくわくする一方で不思議な気持ちでいっぱいです。この映画の関係者の一人になれたことを幸福に思います」。(編集部・大内啓輔)