スティーヴン・ユァン、ウォーキング・デッド以来の当たり役 “目が笑っていない顔”にこだわり
海外ドラマ「ウォーキング・デッド」のグレン役で人気のスティーヴン・ユァンが、昨年末行われた「ハリウッド・コレクターズ・コンベンション」の第13弾「ハリコンNo.13」で来日。村上春樹の短編小説「納屋を焼く」に基づく新作映画『バーニング 劇場版』(上映中)で、「ウォーキング・デッド」とはガラリと異なるキャラクターにふんしたユァンが、いかにしてこの難役に挑んだのか。話を聞いた。
【動画】スティーヴン・ユァンの新作新作映画『バーニング 劇場版』
「ウォーキング・デッド」シーズン7でグレンが死亡し、その壮絶な死にざまは世界を震撼させた。2001年放送のシーズン1から人気キャラクターを演じてきたユァンだが、改めて反響を振り返ると「(出番が)終わっても、燃え尽きることはなかったよ。その後もグレンを演じることになっても楽しくできたと思う」とグレンへの思い入れを吐露。一方で、「ホッとしているところもあって。というのも、物語のチャプターの終わりというのは素敵なこと。次にどんなことが待っているのかとワクワクさせられるから」
本シリーズで一躍人気者になったユァンだが、今数々の賞レースを席巻しているのが村上春樹の短編小説を『シークレット・サンシャイン』『ポエトリー アグネスの詩(うた)』などの韓国の巨匠イ・チャンドン監督が映画化する『バーニング 劇場版』だ。舞台を現代の韓国に置き換え、小説家志望の主人公ジョンス(ユ・アイン)が、幼馴染のヘミ(チョン・ジョンソ)にベン(スティーヴン・ユァン)を紹介されたことから不可解な出来事が起きていく。ユァン演じるベンは裕福で社交上手。「泣いたことがない」と言い、「時々、ビニールハウスを燃やす」秘密の趣味を持っている。この謎の多いキャラクターについてユァンはこう話す。
「ベンはものすごくあいまいなキャラクターかもしれないけど、彼のもつ空虚さ、うつろな気持ちというものは理解できるような気がした。人生における立ち位置に対して感じている空虚さというか。概念的な存在にはしたくない、あくまで人間味をもたせるというのが監督の要望でもあった」
演じるにあたって、まず読書をしたというユァン。その中で貪欲的に吸収したのが、フリードリヒ・ニーチェをはじめとする哲学者の思想だった。「もともと僕が日ごろから模索している哲学、考え方とかぶるような作業でもあったから、そういう意味でもベンとのつながりを感じていた。監督と、『ベンはニーチェ、アルトゥル・ショーペンハウアー、アラン・ワッツのような哲学者、哲学書に影響を受けているのではないか』と話していて、本編ではカットされてしまったけど、友人たちがベンのことを『あいつはニーチェをたくさん読んでいるよね』といったふうに会話をするシーンもあったんだよ」
チャンドン監督の現場では自由に演じられたというが、ベンが随所で見せる「笑顔」は重要なポイントになった。「監督と脚本を読みながら、『この個所は目が笑っていないよね』とか、『この時の笑い方はきっとこんな感じ』とかいうことは話した。自由にキャラクターを模索して演じられる環境だったから演出という演出はなかったけど、撮影期間(4、5か月ほど)、週に何回か監督と会って人生についていろんな話をした。ベンが世界をどう見ているのか、というようなことは話したけど、彼の真意は? といったような話はしていない。僕がベンになって、監督がベンにインタビューをしているような感じでもあったかな」
監督を「僕よりも君の方がベンをわかっている」とまで言わしめたユァン。「ウォーキング・デッド」で世界的スターになった今、今後の俳優としてのキャリアを模索していくのが楽しみだとも語る。「プレッシャーのようなものを感じることは特にないけど、ひとつのキャラクター(グレン)に限定したイメージを持たれないためにはどうすればいいのか、というのは考えているよ」。『バーニング 劇場版』の演技では、LA批評家協会賞、全米批評家協会賞など多くの映画賞で助演男優賞に輝いている。(取材・文:編集部 石井百合子)