アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞候補の注目作、監督を直撃!
第91回アカデミー賞
第91回アカデミー賞にて短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた注目の映画『ライフボート(原題)/ Lifeboat』について、スカイ・フィッツジェラルド監督が、2月12日(現地時間)、ニューヨークのグレゴリーズ・コーヒーで単独インタビューに応じた。
本作は、真夜中にリビアから地中海をボートで渡ろうとする難民たちを救出するために、勇敢に立ち向かうドイツの非営利団体「Sea-Watch」のボランティアを描いた作品。一般市民がいかに難民の危機に有意義な方法で介入できるかを描いている。
本作を手掛けるにあたり、まず撮影許可を得ることが難しかったというフィッツジェラルド監督。「彼らにアクセスすることが、今作の製作の中でも一番難しいことだったね。非常に小さな機関である『Sea-Watch』が所有するボートの大きさは30メートルくらいのもので、難民たちを捜す一回の航海では、約14~16名しか乗船できないため、そのボートに乗せてもらう許可を得ることが難しかったんだ。彼らは、できる限り難民を救助しなければいけないから、メディアなどの取材があっても、一度の航海に2名の取材班(撮影班)を乗せたことはなかったそうなんだ。僕らは彼らに、もし撮影中に悲劇が起きたらカメラを止め、人道的な対応をとると説得して、ようやく2人(監督本人と撮影監督)乗せてもらうことができたんだよ」と乗船への経緯を語った。
だが、彼らが行っているような人道的危機を実際に撮影することは、精神をすり減らすような作業だったと振り返る。「人道的危機の状況に置かれても、いかに感情をコントロールするかが重要なんだ。『Sea-Watch』は心理学者を乗船させて、メンバーや難民たちに対応している。体が疲れて動けなくなった4、5歳くらいの難民が乗ったいかだが、半分くらい水に浸かっていて、そんな小さな子供までもが、今自分が置かれている状況に対応しなければいけない……。それを見ているのが、僕にとってはとても辛かったよ」
一方で、興味深いのは「Sea-Watch」が一度救助した難民たちが乗っていたボートやいかだを、その場(海)で壊し、燃やしてしまうことだ。「『Sea-Watch』のメンバーが望むのは、一度救助した難民が乗っていたボートやいかだが、また人身売買する人たちによって再利用され、その危険なボートやいかだに、再び難民たちを乗船させようとするのを無くすことだ」そのために、その場でボートやいかだを破壊しているのだと説明した。
本作の衝撃的なオープニングシーンについては「映画では、オープニングシーンをどう描くかが重要なんだ。いかに観客を映画に引き込み、いかに観客を映画に集中させるか。僕は映画監督として、まず、観客に質問を投げかけ、その質問で観客に興味を持ってもらうかを考えるんだ。観客に問題提起しても、(映画内で)すぐに答えを出さなくても良い。あくまで映画全体の中のどこかで、その答えを出すつもりでいればいいんだ。だから僕は、今作で強烈なリアリティーを突きつけているんだよ」と意図を明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)