実話を基にしたオスカー受賞作『グリーンブック』名エピソードがありすぎて困るほどだった!
第91回アカデミー賞で作品賞など三冠に輝いた映画『グリーンブック』の制作過程について、ピーター・ファレリー監督が語った。
本作は、人種差別が残る1962年のアメリカ南部でのコンサートツアーを計画した黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と、用心棒兼運転手として彼に雇われたイタリア系のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)の実話を基にしたロードムービー。学があって洗練されたドクターと粗野で無教養のトニーという正反対の二人が、旅を通じて心を通わせていくさまに笑って泣いて、心が温かくなる作品だ。
生涯続いた彼らの友情の始まりの物語を映画にしようと決めたのは、トニーの実の息子であるニック・ヴァレロンガだ。ニックは将来的な映画化を目指して父はもちろん、家族ぐるみの友人だったドクター・シャーリーにもインタビューを行っており、録音テープやメモ、劇中で重要な役割を果たすトニーから妻への何通もの手紙など参考資料は膨大な数に上ったため、ニックらと共に脚本を執筆したファレリー監督はうれしい悲鳴を上げることになった。
「実際の旅は1年にわたるものだったから、選べるエピソードは大量にあった。僕たちが本作で描いたのは10月からクリスマスイブまでで、それが彼らの旅の最初のパートだったんだが、エピソードに関しては1年分の中から選んでいったんだ。脚本を書き始める前にどのエピソードを取り上げるか、正しい順番にするにはどうすればいいかということを精査しなくてはいけなかった」とファレリー監督。残念ながら本編には入れられなかった良いエピソードも「それはもうたくさんある!」といい、二人が暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領の葬儀に行くエピソードもそのうちの一つだと明かした。
監督にとって特に重要なのは、トニーがドクターに会う少し前、家に来た黒人作業員たちが使ったグラスを捨てるシーンだという。「トニーは人種差別主義者だと示すシーンだ。このシーンがなければ、何の意味もない映画になったと思う。このシーンから始めるのはつらかったけどね」。そして、盲目的に黒人に対して偏見を抱いていたトニーの目は、ドクターとの旅を通して開かれることになる。初めてドクターの演奏を聴いた時、彼の運転手であることを本当に誇らしげにするトニーの姿には思わず頬が緩んでしまう。「それは手紙から取ったんだ。何てすごいんだとドクターの演奏に魅了されたと書いてあった。トニーはドクターのすごさを完璧に理解していたんだ」。
大食漢のトニーに成り切ったヴィゴは劇中、ホットドッグやピザやらを面白いほどむしゃむしゃ食べ続ける。ファレリー監督は「彼はこの映画のために20キロ増量したんだ。撮影前に11キロ、そして撮影中にもう9キロさ(笑)。彼はノンストップで食べていたよ」と明かす。一方、ドクター・シャーリー役のマハーシャラはピアニストの振る舞いを時間をかけて学び、実際にドクターのユニークな音をよみがえらせたのは、29歳のアメリカ人ピアニスト・作曲家のクリス・バワーズだ。「マハーシャラはピアノに完全に慣れ、曲はクリスが素晴らしく弾いてくれた。そして最終的に、二人の顔を置き替えたんだ。複雑な作業だったけれど、上手くいったと思っているよ」。
これまで『メリーに首ったけ』や『ジム・キャリーはMr.ダマー』などおバカコメディーを手掛けてきたファレリー監督は、本作ではドラマとコメディーの絶妙なバランスを取ることに成功している。「この映画は、僕の他の映画とは違ったトーンになるということはわかっていた。軽すぎるようなものにはしたくなくて、全てのコメディーはドラマの中から自然に生じるようにしなくてはいけなかった。俳優たちは本当に素晴らしかった。彼らの演技がおかしさを生んでいるんだよ」とヴィゴとマハーシャラを称賛し、「現在と共鳴する映画を作りたかったんだ。なぜなら今は分断の時代だから」と正反対の二人の友情物語に込めた思いを明かした。(編集部・市川遥)
映画『グリーンブック』は公開中