山崎賢人『キングダム』信は絶対にやりたかった
俳優の山崎賢人が肉体改造を含め、極限の状態で挑んだ映画『キングダム』(全国公開中)。彼が演じたのは「天下の大将軍になる」と果てしない夢を追いかける戦災孤児・信。原作連載10周年の実写特別動画でも信を演じた山崎。実写化の話があがったときには「絶対に演じたかった」と強い思いを胸に抱いたという。
優しい眼差しで柔和な笑顔。これまで数々の映画やドラマに出演してきた山崎だが、共演者は総じて彼のまとう無邪気で温厚な人柄を賞賛していた。実際取材などで見せる顔も、飾らず気取らずニュートラルな姿が特徴的だった。
そんな山崎が鋭い視線で熱を帯びて語るのが『キングダム』という作品だ。中国の春秋戦国時代を舞台に、壮大なスケールで描かれる原泰久の原作は、世界中で人気を誇る傑作漫画。山崎自身も「大好き」で夢中になって読んでいたという。ただ、その世界観は果てしなく深く、そう簡単には「実写化」などと口にできないほどの大作だ。
そうしたなか、原作が連載10周年を迎えたとき、実写の特別動画が制作されるという企画が出た。そこで主人公・信を演じたのが山崎だ。約3分という短い動画だったが、山崎は「全力で演じた」と世界観の虜になった。「そのとき、もしかしたら実写映画にできるかも」ということを噂レベルでは聞いていたそうだが、そこから山崎の心のなかには、常に「キングダム」というキーワードが住み着いていた。
「実写化決定、信は山崎賢人に」というオファーを受けたときは、嬉しすぎて「夢のようだった」と語った山崎。すぐさま原作を1巻から読み返した。山崎にとって、生きていくうえで大切なことがすべて詰まっている物語。演じるうえでは妥協は許されない。戦災孤児、天下の大将軍を目指すという役柄上、極限まで肉体改造に挑んだ。そんなことすら“楽しい”と思えるほど、作品に没頭した。
中国で行われたロケをはじめ、撮影は過酷を極めたが「絶対良いものを作るんだ」という熱は最後まで冷めることはなかった。山崎の“熱い”思いが伝わるエピソードがあるシーンの撮り直しだ。気持ちのつながりの面でどうしても納得がいかなかった山崎は、松橋真三プロデューサーに再撮の直訴をした。
「とてもタイトなスケジュールで進む現場。(佐藤信介)監督がOKを出したものを、自分の思いだけでもう一度お願いするのは、普通ではありえないこと」と山崎は振り返ったが、どうしても気持ちがつながらないと思ったシーンがあった。迷いもあったというが「ずっと続く撮影。気持ちが乗らないまま進んでいくのが怖かった」と思い切って相談した。厳しい撮影スケジュールだったが、佐藤監督も快諾し、そのシーンは撮り直され、本編でも使用された。
スタッフ、キャストすべてが一丸となって妥協することなく「絶対納得してもらえるものを作ろう」という思いで臨んだ。その思いは、確実にスクリーンに刻まれている。「信は俺しかいない」山崎の決意は作品に色濃く反映されている。(山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記)(取材・文:磯部正和)