宗教の名の下に、先生を殺すという考えに取りつかれた少年…ダルデンヌ兄弟が描くリアルと希望
第72回カンヌ国際映画祭
カンヌ国際映画祭の常連、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の新作は、イスラム教の狂信者となり、学校の先生を殺すという考えに取りつかれた少年を描く映画『ヤング・アーメッド(英題) / Young Ahmed』だ。本作は現在開催中の第72回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門に出品されており、ダルデンヌ兄弟が『ロゼッタ』『ある子供』に続き3度のパルムドール獲得となるかも注目されている。
ベルギーで暮らし、イスラム教徒の父と白人の母を持つ13歳のアーメッドを主人公にした本作。ダルデンヌ兄弟は余計な説明はなしに、ビデオゲームに夢中な普通の子供だったが最近、イスラム教の狂信者に急変したアーメッドの姿を淡々と見せていく。まだ幼さの残るアーメッドだがその心はあまりにも頑なで、母親やカウンセラーといった周囲の人間の試みもむなしく、宗教的な敵とみなした先生を何が何でも殺そうとする……。
現地時間21日に行われた公式会見でリュックは「宗教がいかに人間を魅了し、完全に変えてしまい得るかということを描いた」と説明。「たくさんの人たちが彼のためを思ってベストを尽くすが、うまくいかない。狂信者は自分が正しいと信じて切っていて、聞く耳を持たないから。だからこういう人たちは恐ろしい」とアーメッドと周囲の関係はリアルに徹して描き出したと語った。
それでも本作には一筋の希望の光も差し込む。それが評価を分けた点でもあるが、ジャン=ピエールは「わたしたちが観たかったのは、どのようにすればアーメッドを元の姿に戻せるかということ。これはバカみたいにナイーブな映画なのではなく、平和についての映画なんだ。わたしたちは、命はいつだって力強く、何物にも勝ると信じている。過激主義も命にはかなわない。もちろん難しく、時間はかかるかもしれないが」と現代の切実な問題に希望を込めたと明かしていた。(編集部・市川遥)
第72回カンヌ国際映画祭は現地時間5月25日まで開催