細田守監督、故・高畑勲監督の魅力を語る
東京国立近代美術館で開催中の企画展「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」にて3日、「細田守が語る監督『高畑勲』」と題したトークショーが行われ、細田守監督、聞き手として宇垣美里フリーアナウンサーが出席。細田監督が高畑勲監督の魅力を熱く語った。
本展は、昨年82歳で亡くなった高畑監督の業績を総覧する回顧展。戦後の日本アニメーションの基礎を築いた業績や多面的な作品世界の秘密に、制作ノートや絵コンテなど、多数の未公開資料と共に迫る内容になっている。
トークは90分間にわたって行われ、高畑監督の演出や美術、作品性などについて幅広く展開。冒頭では『かぐや姫の物語』(2013)の大ファンだという宇垣アナが、「どの作品も押しつけがましくないというか、受け止めるのはあなたの自由です、というある種の置いてきぼりにされる感じがすごく好きで、人によって受け取り方が全然違うのを話し合うのが好きです」と思いを語ると、細田監督は「いいですね」と同意。
細田監督いわく、それは高畑演出の特徴のひとつだといい、「演出は色々な持っていき方があり観客の気持ちを誘導して持っていきたい方向に誘うのもひとつのやり方ですけど、高畑監督のやり方のひとつに客観性があると思います。主人公に感情移入させて物語を見ていくのではなく、主人公を客観的に見て、彼・彼女はどういう立場に置かれているのか、それを見ている側が自分で考える。いかに感情移入をさせるのかがまず問われるけど、高畑さんはそうじゃない、映画というのは主人公に共感するのだけが感動じゃないんだと」と解説した。
美術については『セロ彈きのゴーシュ』(1982)や『おもひでぽろぽろ』(1991)などに話が及び、手書きの質感が伝わる作画をスクリーンに表示しながら細田監督が画の魅力を紹介。昨今のリアルな作風と比較しつつ、「アニメーションは画なんだと。画の表現によって、世界観やある種の心情をリアルに伝えることができるんだと。美術をリアルに描けばリアルになるのではなく、こういう美術の世界観によって伝わるものが多い」と紹介し、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)や『かぐや姫の物語』などラフなタッチの作品を引き合いに出し、「口の悪い人が『手抜き?』とか言いますけど、そうではありません。クオリティーという言い方で作品を評価する時に、細かければクオリティーが高いと言われることがありますけど、そういうわけではないです。僕も『時をかける少女』(2006)の時に、高畑さんから『美術は書き込みすぎだ』と批判があり、くそーって思いましたけど(笑)。でも、そういう中で試行錯誤していきたいです」とアニメーションにおける画の位置づけを語った。
質疑応答では自身が宮崎駿監督と高畑監督のどちらに似たタイプかと聞かれ、細田監督は宮崎監督タイプと回答する一幕も。その理由として高畑監督が脚本通りに進めることを振り返り、「宮崎さんと話した時に面白いと思ったのは、『高畑さんって字で書いて字に思いを込めるんだよね。最初に描いた脚本からまったく変えないんだよね。それ、俺わかんねぇな』と宮崎さんが言っていて。俺もどちらかと言えば作っているうちに変わっていく方なので、一旦決めたら変えないのも高畑さんの勇気なんだろうなと。プレスコ(※アフレコとは違い先に声を入れる作業)も絶対的に変えない自信があるからやっているのかもしれないし、宮崎さんは『文字に何か魂を宿しているんじゃないかな』と言っていました」と印象深いエピソードも紹介していた。(取材・文:中村好伸)
企画展「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」は10月6日まで東京国立近代美術館にて開催