吉岡里帆「役は選ばない」30代を見据える思い
映画『見えない目撃者』で主演を務め、目の見えない元警察官を演じた吉岡里帆。これまでにないハードな役どころに挑んだ吉岡が20代を折り返す今、胸中を語った。
素顔でやることが許された役
本作で吉岡が演じたのは、自らの過失で弟を事故死させ、視力も失ってしまった元警察官の浜中なつめ。ある日、自動車の接触事故に遭遇したなつめは、車中から聞こえた助けを求める少女の声から誘拐事件の可能性があると考え、もう一人の目撃者である春馬(高杉真宙)を探し出して事件解明のために奮闘する。自身が演じるなつめについて、吉岡は「筋が通っていて、ハンディを抱えながらも正義感の強い人間であることに惹かれました。だからこそ芯の部分を表現しないとぶれてしまう」と強い決意があったという。
吉岡が「これまで演じたことがない」という役に挑んだ本作。身体を張ったアクションやスリラーにも挑戦し、吉岡自身「ほとんど剥き出しで、素顔でやることが許された役。今までと明確に違うと思います」と真剣な眼差しで語る。目が見えない演技も、役者犬との全編を通しての共演も、アクションもすべてが初めて。しかも、3つを連動させた演技に苦労も多かった。
「付け焼き刃ではできないので、少しずつ積み重ねていった感覚です。アクションやスリラーの場面はカット数も多くて動きも激しいので、集中力をキープするのに必死で。目が見えない演技を含め、緻密にやることがリアルかつエンタメとして成立させることができるという思いでした」
今回のチャレンジの始まりには、主人公の強さに惹かれたことがあるという。「なつめは目が見えないこともはねのける強い気持ちを持ち続けるのが個性です。社会的な弱者のようでいて、実は誰よりも強い人間。果敢に危険に挑むのは、自分はできない。でも諦めない気持ちは理解できるな、と。長い時間をかけて対峙してくという芯の部分は共鳴できました」
“目が見えない”という演技
“目が見えない”という演技に対し、真摯に辛抱強く挑んだ吉岡。「いろいろなアプローチがあったのですが、ただ感情がゼロになるのだけは避けようと。常に何かを思っていると感じさせることは意識して、目が使えないから芝居が制御されるのではなくて、目が使えないぶん感情が伝わるように演じたいと思っていました」という。
クランクインの2か月ほど前から入念な準備を始めたという吉岡。「演技に説得力がほしかったので、盲導犬と暮らす3人の方に取材して、生活リズムや暮らしぶりを聞きつつ物語や動きと照らし合わせました。取材をさせていくなかでハッとしたのは、部屋に電気をつけずに真っ暗で過ごすこと。なつめはパソコンで仕事をしている設定でしたが、お話を受けて一人のときには夜でも灯りをつけない演出に変わりました」
役者犬とのがっつり組んでの演技ももちろん初挑戦。「盲導犬はペットではなくて、不可欠なパートナー。一緒に暮らす方からすると自分の一部みたいな存在で、あまりよしよししたり遊んだりはしないそうです。役者犬のパルに対しても、一緒にいるとたまらない気持ちになるんですが、パートナーなんだという気持ちで接するようにしました。パルは好奇心旺盛なコで、最初の頃に歩行練習をしたときは、楽しくなっちゃったのか、水たまりに突っ込んだり猛ダッシュしたり、とにかく可愛かったです(笑)」
30代に向けての“大事なテーマ”
今回の挑戦は、吉岡にとって大きな経験となった。「全員が職人のような撮影現場で、それがきちんと形になったことは素直に嬉しい。とてもハードな現場でしたが、この年齢でやらせてもらえたのは大きなことですし、ありがたいこと。今は20代の中盤で、30代にどんなふうに仕事ができるのか? どんな役ができるのか? というのが大事なテーマだなと思っているんです。今回のように新しいものに出会えたことは大きな一歩になりました」と語る。
そんな吉岡は「今はとにかく目の前の仕事を必死にやることだけです。ただデビューして一貫して念頭にあったのは、役を選ばない、選びすぎないということ。これからも難役や人から敬遠されるような役にも挑戦したいと思っていて、例えば歪んだキャラクターや今回のようにハンディを持った難しい役にも挑戦したいと思っています。怖がらずに挑戦することができると思ってもらえるような役者でいたいので、オファーが来たときは本当に嬉しいんです」
そして、同じ警察官という役どころでありながら、正反対な作風の新ドラマ「時効警察はじめました」(10月スタート)に新キャストとして参戦する吉岡。「本当に真逆すぎて笑っちゃいます。仕事のシーンは描かれず、ただ趣味の時効事件の捜査に打ち込むっていう。ヤシガニを追いかけたりしています」と笑う。この秋は、変幻自在な吉岡の演技を楽しむことができそうだ。(編集部・大内啓輔)
映画『見えない目撃者』は公開中