松重豊「いだてん」セリフの覚えやすさ指摘 初の宮藤官九郎作品で熱演
最終章に突入した大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合・日曜20時~ほか)で、1964年東京オリンピック開催に向けてのキーマンとなる東京都知事・東龍太郎(あずま・りゅうたろう)を演じている松重豊。現在、主演ドラマ「孤独のグルメ」Season8が放送中、名バイプレイヤーとして数々の作品に出演し、今年10月公開の『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』で映画初主演も務めるなど、ますます活躍の幅を広げる松重が「肩の力を抜いて取り組めた」という本作の魅力を語った。
松重演じる東は、日本体育協会会長やIOC(国際オリンピック委員会)委員を務めていたが、田畑政治(たばた・まさじ/阿部サダヲ)の熱意にうたれて覚悟を決め東京都知事に。1964年に東京オリンピック開催が決まると、首都高をはじめとするインフラ整備に注力し“オリンピック知事”と呼ばれた人物だ。松重は「資料に残っている田畑さんというのも相当な早口だったようで、阿部くんはうまく踏襲してやっている。そんな田畑に東も『乗せられているな』と客観的な目を持ちつつも、あえて勢いに乗ろうという人のよさがある。人柄が良いぶん、いろいろなしがらみに板挟みになっていくんですよね」と東という人物を捉える。
以前から宮藤官九郎脚本の作品に出演したかったと話していた松重だが、今回初めて参加し、あらためて宮藤脚本に魅了された。それは田畑という人物の切り取り方を含め「宮藤官九郎の書く言葉の力」だという。「オリンピック招致に向けてさまざまな人が意見を交わしますが、その多くが晩年に差し掛かっている人物であるなか、あれだけの熱量を持って意見を交わすのは、宮藤メソッドとでもいうのか、脚本を読んでいるだけで自然と役柄に入り込めて、熱くなれるんです」
松重が、もう一つ宮藤脚本に感じたことが「セリフの覚えやすさ」だった。「日本語の持つリズムを意識されている作家さんなんです。昔、山田太一さんが書かれたドラマに出演したときにも感じたのですが、しゃべり言葉として、音の情報がしっかり乗っている台本なので、大変なセリフでも覚えやすいんです。これは決して悪口ではないですが、2行のセリフでも10日間かけても覚えられない作家もいます。その点、宮藤さんの脚本は、体が水を吸収するように入ってくる。驚きました」
そんなテンポの良い脚本に出演者は乗せられ、熱量を持ってキャラクターを演じることができる。本作の魅力はそこにあるというのだ。さらにこれまで、「毛利元就」(1997)、「北条時宗」(2001)、「八重の桜」(2013)など大河ドラマの出演経験も豊富な松重が、良い意味で「肩の力を抜いて取り組めた」大河が「いだてん」だという。
「大河ドラマというと、入り時間が早くて、カツラや衣装をつけ、肉体的な負荷をかけることで、いわゆる何かになるという役づくりの仕方があるのですが、今回はそういうことがなかった。もちろん髭をつけるようなちょっとした扮装はありましたが、宮藤さんの脚本がホームドラマのようであり、社会派ドラマでもあるような多面的で、しかも会話のテンポがよく、声を上げて笑うこともありました。その意味では、これまでとは大きく違いました」
一方で「朝ドラとも違う、土曜ドラマとも違う。これは紛れもなく大河ドラマなので、やる側としては『僕らの時代は何を背負っているのか』というのは考えながらやっていました」と振り返る松重。その背負ったものは「戦争」であり、「戦争によってオリンピックの夢が消え、終戦後、またオリンピックの夢を持ち、それに向かって邁進する人々がいた。それが50年の時を経て、今に繋がっているという立脚点をしっかり考えてお芝居をしようと心掛けました」と松重なりのスタンスを述べていた。(取材・文:磯部正和)