池松壮亮、「未来は明るい」という言葉の矛盾と戦い続ける
静かな佇まいの中に、驚くほどの情熱を秘めた俳優・池松壮亮。最新作『宮本から君へ』(全国公開中)では、人生負けっぱなしでも、どこまでも愚直に生きる主人公・宮本を体当たりで演じている。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『斬、』など邦画界に強烈な爪痕を残す作品に立て続けに出演し、若手俳優のトップランナーとなった彼が「今、どうしても時代や人々の心に余裕があるようには思えない。だからこそ一本一本こだわって映画を発表していきたい」と映画に託した思いを語った。(取材・文:成田おり枝)
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1990年に連載がスタートした、新井英樹の伝説的コミックを真利子哲也監督が映像化した本作。宮本が営業マンとして奮闘する“サラリーマン篇”を描き反響を呼んだドラマ版に続いて、劇場版では宮本と恋人の靖子(蒼井優)が“究極の愛の試練”にぶち当たる様を映し出す。
連載当初は、暑苦しいほどにまっすぐな宮本の生き方を嫌う人も多かったというが、約7年前、22歳の頃に原作を読んだ池松は「とんでもなく食らってしまった」と大きな衝撃を受けた。「当時のマネージャーが“宮本”という名前だったんですが(笑)、宮本さんに『とんでもなく食らっちゃったんだけど、この漫画、知っている?』と聞いたら、ちょうど(オファーの)お話が来ていて。実現するまでに結構な時間がかかってしまったんですが、なんとか早くやらなければと思っていました」
食らってしまったのは、「生きることにとことん向き合う作品だった」から。そして「宮本のようになれなかった自分がいる。宮本が持っている“生きることへのまっとうさ”のようなものに、僕はたくさん蓋をして生きてきたし、あそこまで捨て身の覚悟で生きてこられなかった。宮本は、手の届かないヒーローにも思える」と憧れを抱いたからだ。一方で、仕事にも恋にも諦め悪く、汗水垂らしてぶつかっていく宮本について「日常生活で土下座をしたり、涙、鼻水を垂らしたりする男は嫌いですからね」とも。「僕はきちんと育てられたので、人様に迷惑をかけてはダメ、人前で泣いてはダメ、ご飯はきれいに食べなさいと言われてきましたから。宮本については、愛憎入り交じる感じです」と笑う姿からも、宮本への特別な愛情が溢れ出す。
第9回TAMA映画賞で最優秀男優賞に輝いた際のスピーチで、池松は「人の心に届かない映画を何本作っても同じ。一本一本こだわって諦めずにやっていきたい」と力強く語った。「宮本のようになれなかった」と自己分析するものの、映画作りへの情熱はまさに宮本の姿と重なるが、本人も「宮本の一言、一言すべてが理解できる。僕も昔から諦めが悪いし、傲慢だし」と告白する。
さらに、そのこだわりは「より一層、増している」という。「自信を持って言えるのは、自分できちんと(作品を)吟味して、頭を抱えて映画を発表していかなければいけないということ。もうちょっと時代や人々の心が豊かになれば、適当にやれるんですけれどね。今の時代って、僕の主観だと決して余裕があるとは思えない。だからこそ、宮本のような役に自分が行き着いてしまう」とその決意には、今の時代に抱く思いが反映されている。
「僕は平成2年生まれですが、どんどん悪化しているようにも見えるというか。それでも“未来は明るい”“明日はすばらしい”という言葉を浴びながら育ってきた。そういった矛盾と戦っているようなところがあります。やはりこれだけグローバルな世界になって、世の中が見える時代になってきたときに、映画をやっている人間としては、時代に感じている矛盾に蓋をして歩むようなことはしてはいけないと思っています。僕は映画って、未来を勝ち取るためにあるべきものだと思うから」
カッコ悪いほどに不器用ながら、必死に生きる宮本を通して「人と関わることのすばらしさと、面倒臭さ。そして人の愛すべきところ。そういったものに立ち返れる気がしている。本作が、令和という新しい時代を生きる人へのラブレターやプレゼントのようなものになったらうれしい」と願う池松。『宮本から君へ』はそんな彼の熱量、気迫が画面の隅々からほとばしる。