「深夜食堂」松岡錠司監督が語る映像の深み<撮影現場レポート>
10月31日に配信が始まるNetflixオリジナルシリーズ「深夜食堂 -Tokyo Stories Season2-」の撮影現場取材会が4月に行われ、深夜ドラマとしてスタートして今シーズンで10年目を迎えた本作の松岡錠司監督が撮影の合間に取材に応じた。
「深夜食堂」シリーズは安倍夜郎の同名コミックを小林薫主演で実写化し、2009年にドラマ第1弾が放送。2015年と2016年には映画が公開され、今作はNetflixオリジナルシリーズとなってから2シーズン目となる。小林演じるマスターが営む食堂「めしや」を舞台に、温かくも時に切ない人生模様を描いている。
「深夜食堂」の撮影現場の特徴は、まるで本物の飲み屋街がそこに現れたかのように見事につくり込まれた巨大な美術セット。ただ、「めしや」は劇中に描かれている通り決して広いとは言えず、その中で松岡監督はカメラに映っていないキャストもふくめ細かな演出を伝えていた。撮影現場に置かれたホワイトボードには人物配置やカメラ位置が書き込まれ、カットが変わるタイミングで松岡監督はホワイトボードの前に戻り、台本をふくめ確認を重ねていた。
「基本的に『めしや』の中で人は座っているので動かないんです」と松岡監督。「座っている人たちをどう撮るのかはとても勉強になります。カメラ位置は基本的には決まっていますが、その中でちょっとしたニュアンスを出すためにどう撮るのか。誰かが後ろ姿なのはそのままでいいのか。決めていくのは本当に細かくて大変な作業なのですが、そこを葛藤しながらスタッフと一つ一つ作っていくのが『映像を深める』んだと思います」
これまでの「深夜食堂」との時間を振り返って「作品が作り手を作るんだなと思います」と松岡監督は話す。「制限がある中でいかに充実した作品にできるか。僕は映画監督なので作品の長さは90分ほしくなってしまう。20分前後の作品は『深夜食堂』までやったことがありませんでした。長さによって描写は変わります。短いと人間の変化を少しずつ描くことはできません。制限があるから学習しないといけなくて。それを続けたことで作品が私を作ったという感覚がこの10年であります」
松岡監督によると「めしや」の箸立てに入っている箸には短いものと長いものがあり、カメラの位置によって使い分けていたり、カウンターに座っているキャストの椅子も撮り位置によって変えていたりするという。「その方が自然に見えるんです。完成品はすべて普通に見えるのですが、実はワンカットごとに工夫があるんです」と「めしや」に10年間通い続ける一番の常連だからこそわかることを明かした。(編集部・海江田宗)