グランプリはデンマーク映画『わたしの叔父さん』
第32回東京国際映画祭
第32回東京国際映画祭クロージングセレモニーが5日に東京国際フォーラムで行われ、最高賞となる東京グランプリにデンマークの作品『わたしの叔父さん』(フラレ・ピーダセン監督)が輝いた。
本作は、獣医になる夢を持ちながらも、年老いた叔父と共に家畜の世話をして黙々と日々を過ごす若い姪の姿を描いた愛の物語。国際審査委員長を務めたチャン・ツィイーは、本作を「感動的な詩のような語り口で、我々に穏やかにもの語ってくれました。監督は抑制的で繊細なカメラワークをもって、忘れ去られる人間の情感をとても力強く表現しました」と評価。
登壇したピーダセン監督は「心臓がバクバクして感動しています」と興奮気味だが、「インディペンデントの小さな作品で、少人数のキャスト・クルーで一生懸命撮りました」と思いの丈を語ると、「名誉ある賞を頂き、本当にありがとうございました」と喜びをかみしめた。
また、主演女優のイェデ・スナゴーについて「アイデアの段階から参加して、わたしをサポートもしてくれたし、批判もしてくれた最高のパートナー」と明かすと、「ぜひともまた一緒に仕事をしたい」とリクエスト。さらに「もちろん、ここにいる監督たちに貸し出すことはできるけど、奪わないでください」と呼び掛け、会場の笑いを誘った。
最優秀脚本賞には自身の自叙伝的小説を基に、売れない脚本家と夫に悪態をつき続ける恐妻が繰り広げる夫婦賛歌を映画化した、足立紳監督の『喜劇 愛妻物語』が選ばれた。審査委員のシュリー・ガイエは、日本語で「あなたの脚本は複雑な私生活を覗き見ているようで笑えました。それが脚本を普遍性のあるものにしていました」と批評。
足立監督は「監督は2作目で、本業はシナリオライターなので、脚本賞をとれて助かった」と安堵の表情。「私生活をさらけ出しましたが、自分自身や妻をそのまま演じていただいたわけではないので、濱田岳さん、水川あさみさんがシナリオをあそこまで体現してくださって、それでできた映画から脚本を評価してくれたと思っています」と役者勢に頭を下げるとともに、「コンペの中では珍しい、ただただ笑える喜劇を選んでいただいて感謝しています」と審査委員にも礼を述べた。
本年度は、雪国で女性が失踪し、複数の視点で明かされる驚愕の真実を描いた『動物だけが知っている』(フランス)が最優秀女優賞(ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ)と観客賞、イラン警察とドラッグ組織の対決を描く娯楽作『ジャスト 6.5』(イラン)が最優秀監督賞(サイード・ルスタイ監督)と最優秀男優賞(ナヴィド・モハマドザデー)の2冠を達成。
チャン・ツィイーは「映画が持つ文化性、芸術性、多様性を感じることができました。審査の過程はチャレンジングなものでしたが、我々が共感する作品や判断の基準は基本的には一致していました」と比較的にスムーズに審査が行われたことを報告し、「映画という芸術が永遠に輝きを放ち続けますように」と心をこめて、セレモニーの幕を下ろした。(取材:錦怜那)
受賞結果は以下の通り
■東京グランプリ/東京都知事賞
『わたしの叔父さん』(フラレ・ピーダセン監督/デンマーク)
■審査委員特別賞
『アトランティス』(ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督/ウクライナ)
■最優秀監督賞
サイード・ルスタイ監督『ジャスト 6.5』(イラン)
■最優秀女優賞
ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ『動物だけが知っている』(フランス)
■最優秀男優賞
ナヴィド・モハマドザデー『ジャスト 6.5』(イラン)
■最優秀芸術貢献賞
『チャクトゥとサルラ』(ワン・ルイ監督/中国)
■最優秀脚本賞
『喜劇 愛妻物語』(足立紳/日本)
■観客賞
『動物だけが知っている』(ドミニク・モル監督/フランス)
■アジアの未来 作品賞
『夏の夜の騎士』(ヨウ・シン監督/中国)
■国際交流基金アジアセンター特別賞
レザ・ジャマリ監督『死神の来ない村』(イラン)
■日本映画スプラッシュ作品賞
『i-新聞記者ドキュメント-』(森達也監督)
■日本映画スプラッシュ監督賞
渡辺紘文監督『叫び声』