黒沢清監督、海南島国際映画祭マスタークラスへ 映画監督目指す若者にアドバイス
『CURE キュア』(1997)、『回路』(2000)などホラー&スリラー映画の鬼才として海外でも高い評価を受ける黒沢清監督が7日、中国のリゾート地・海南(ハイナン)島で開催中の第2回海南島国際映画祭のマスタークラスに登壇。前田敦子主演の日本・ウズベキスタン合作映画『旅のおわり世界のはじまり』(2019)など映画祭で特集上映される作品の舞台裏に加え、中国の熱心な黒沢信者たちからの質問に応じた。
昨年始まった本映画祭で4本の作品が上映された黒沢監督。拍手と共に壇上に迎えられた黒沢監督は、マスタークラスとして招待されたことに「自分がマスターだと思ったことはありませんし、もっと偉大な監督が世界中に多くいる中、こうして呼んでいただけて大変光栄です」と謙虚なあいさつ。話題は、全編ウズベキスタンで撮影された『旅のおわり世界のはじまり』から始まった。
本作の制作の経緯について、自身の発案ではなく知り合いのプロデューサーから「ウズベキスタンで撮らないか」と話があったことがきっかけと説明しつつ、知人、友人たちのサジェスチョンが自身にとって非常に重要であることを指摘。『トウキョウソナタ』(2008)も香港在住のプロデューサーから「東京に住んでいる4人家族の話を撮ってみないか」と突然言われたことが始まりだったと言い、「知人たちのヒントがなければ今自分はここにいなかったかもしれない」と振り返った。
ホラー映画における効果的な表現に話が及ぶと、黒沢監督は最も簡単な手段として「音楽」を挙げるも自身は頼らないスタイルであることを強調。「例えば、ハリウッドでは音楽をかけなくても十分に伝わるのに100人全員に同じ気持ちにさせるようにと派手な音楽をかけるけど、自分は少し違って音楽に頼ろうとは思わない。むしろ無音の方が効果的なケースもあると思います。人は無音になると次に何が起こるのかと不安になるもので」
また、海外で人気の『CURE キュア』については『リング』(1998)をはじめとするJホラーとは一線を画す作品であることを前置きしたうえで、「ジャンルで言うならばストーリーに関してはサイコスリラーで、完全にアメリカ映画を真似して作った」とのこと。「直接参考にしたのは『羊たちの沈黙』(1991)ですが、撮影方法はアメリカとは全く異なるものです。それは撮影日数などの制約があったからなのですが、具体的に簡単に言うとワンシーンワンカットです。1990年代後半にそういう作り方をしている有名な監督というと、エドワード・ヤン、テオ・アンゲロプロス。当時、僕が本当に好きな監督でものすごく影響を受けました。その結果、アメリカ映画でも日本映画でもない奇妙な独特なものとして、世界の方々に認知されたのではないかと思います」
約90分予定のイベントだったが終了時刻を過ぎても質問の挙手は続き、映画監督を目指す若者たちへのアドバイスを求められると「なるべくさまざまなジャンルの作品を撮ること」と回答。海外ではホラー映画の監督として知られる黒沢監督だが、「自分もホラーだけなく家族もの、ヤクザ、コメディーとさまざまな映画を撮ってきましたが、たとえ興味が持てない分野だったとしても撮ってみると意外な発見があるものなんです。これまでに想像していなかったような可能性も出てくるので、40歳になる前に撮れる映画は全部撮ってみてはどうでしょうか」と自身の体験を挙げながら真摯に答えた。(取材・文:編集部 石井百合子)