『ヒックとドラゴン』衝撃のラストはこうして生まれた…8歳の少年の言葉で決断
バイキングの少年ヒックとドラゴン・トゥースの友情を描いたアニメーション映画シリーズ第3弾にして完結編『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(公開中)のディーン・デュボア監督が来日してインタビューに応じ、シリーズとの関わりを振り返るとともに、世の中を驚かせた第1弾のラストの誕生秘話を明かした。(以降、第1弾の結末に触れています)
2010年公開の『ヒックとドラゴン』を皮切りに3部作全てで監督・脚本を務め上げたデュボアだが、第1弾に参加したのは制作半ばでのことだった。「その時には違う監督と脚本家の下ですでに2年間進められていて、彼らは原作(クレシッダ・コーウェルの同名児童小説)にとても忠実な映画にしようとしていた。だけど劇場公開の約16か月前になって、ドリームワークス・アニメーションは新しいストーリーが必要だと判断してね」。そしてディズニーの『リロ&スティッチ』で名をはせたデュボア&クリス・サンダースに声が掛かることになった。
「キャラクターの名前はそのままに、もっとファンタジーアドベンチャーの要素を盛り込んだ新しいストーリーを作ることになり、僕たちはトゥースという存在について考え直したんだ。原作での彼は犬くらいの大きさで話すこともできるのだが、僕たちはトゥースをもっと恐ろしいドラゴンとして扱うことにした。漆黒で、巨大、実際には誰も見たことがないけれど皆が最も恐れる伝説のドラゴンというような……。そうすれば、少年がリスクを取ってドラゴンと友情を形作る、というのがより素晴らしいストーリーになると思った。その友情がバイキングとドラゴンの関係性を永遠に変えることになるんだ」
第1弾で評判を呼んだのは、実際に風を感じられるほど臨場感にあふれたドラゴンの飛行シーンに加え、ヒックが脚を失うというシビアなラストだ。失われた脚を見て少し驚きながらも静かに受け入れるヒック、そして初めての義足でふらつきながら歩くヒックを支えてやるトゥース(トゥースもかつてヒックによって撃ち落され、片方の尾翼を失っている)の後ろ姿のシーンは映画史に残る美しさといえるが、もともとは違うエンディングが想定されていたという。
「(もともとのエンディングは)当時のボス、ジェフリー・カッツェンバーグ(※ドリームワークス設立者の一人)に単純すぎるし、ハッピーすぎると言われたんだ。彼は僕たちがこの映画でいくつかの大胆な選択をしたとたたえてくれたが、それに比べてエンディングはちょっと普通すぎるとね。それで彼が提案したのは、トゥースを殺したらどうだろうということだった。クリス・サンダースと僕は『えぇ……それは過激すぎる』と思った(笑)。でもその精神は取り入れて、主人公が二度と治らない負傷をするというのはどうだろう、と考えたんだ。僕たちはこのストーリーにおいて常に“危険をリアルなものに感じさせよう”としてきたから、相応しいように思えた」
そこで、親と子供たちを招待し、この挑戦的なラストシーンを含めた映画のテスト試写が行われることになった。デュボア監督は彼らがこのラストに動揺しやしないかと非常に心配していたと振り返るが、待っていたのは意外な反応だった。
「彼らはそれを受け入れてくれ、『とてもいいシーンだから、どうか映画からカットしたりしないで』とわざわざ言ってくれた。親たちだけでなく、子供たちもね。これで間違いないと思えた瞬間は、8歳くらいの小さな少年が手を挙げて、『確かに悲しい。ヒックは脚を失ったから。だけど彼はそれ以上のものを手に入れたんだ』と言った時だった。僕たちはその時、子供も大人もその意味をちゃんと受け止めてくれるのだと理解した」「映画の公開後にはケガや病気で手足を失った軍人や子供たちが連絡をくれて、スタジオを訪問してくれた。自分たちを描いてくれたと感動して、とても喜んでくれていたんだ」
第1弾の成功後、スタジオから続編のアイデアを思いつくかと聞かれたデュボア監督が提案したのが「3部作構想」だった。「そうすれば一つの大きなストーリーの中に、三つのアークを入れられる。三つの独立した映画が相互に働き合うことで、何もできなかった不器用な少年が賢く無私無欲のリーダーになるまでというヒックの旅、そして自分の運命を見つけるトゥースの旅を語ることができるんだ」。そうして丁寧に築き上げられ、互いになくてはならない存在となったヒックとトゥースの物語の完結編となる『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は、シリーズファンなら涙なしには観られない、ほろ苦くも美しい見事なフィナーレになっている。(編集部・市川遥)
映画『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は公開中