映画初主演から21年、松たか子が走り続けるための言葉
舞台、映画、ドラマとさまざまなジャンルで活躍を続ける女優・松たか子。初主演映画『四月物語』(1998)のメガホンをとった岩井俊二監督と約21年ぶりの再タッグとなった映画『ラストレター』(1月17日公開)が、間もなく公開を迎える。互いに長く一線級として活躍していたからこその再会に「光栄なこと」としみじみ語った松が、女優業を長く続けるために心掛けていることについて語った。
過去に仕事をした人と再会するとき「ガッカリされたくはないですよね」と語っていたが「でも、どうすれば良くなったと思ってもらえるのかはわからない。結局は役に向き合うしかないですよね」と思いを巡らせる。
松と言えば、16歳のときに歌舞伎「人情噺文七元結」(1993)で初舞台を踏み女優としてのキャリアをスタートさせると、「ロングバケーション」(1996)や「ラブ ジェネレーション」(1997)など大ヒットドラマへの出演、さらには前述した『四月物語』で映画初主演を務めるなど、順風満帆な女優人生を送っているように感じられる。
しかし本人は「デビュー当時から『どういう役をやりたいとか、こういう役じゃないと』といった野望は一切なかったんです。ただただ人や作品に出会う度にありがたいという気持ちでやってきた」とこれまでのキャリアを振り返る。
肩肘を張らず、縁に感謝しながら進んでいった芸能活動。仕事を始めたときは、作品との接点がオーディションだったとすると「観た人が面白がって広がってくれればいいな」と漠然と思っていたという。しかし今は「極端に言えば、これが最後かも」という気持ちで取り組むようになった。だからと言って切羽詰まったような『全力で出し切ります!』みたいなドロドロした感じではなくて」と笑う。
さらに松は「言葉だけ捉えると重く感じるかもしれませんが、言い換えれば『当たり前に仕事が続くと思ってはいけない』と自分を戒めるぐらいの気持ちでしょうか」と続ける。崖っぷちだったり、思い詰めて発する言葉ではなく、心持ちとして「人生、何が起こるかわからない」と思い「これが最後かも」と一言、軽く自分に言い聞かせて作品に臨むことで適度な緊張感を保ち、モチベーションが持続する。
「軽い気持ち」と松は強調していたが、実際作品に入ってしまうと、ペース配分はうまくいかず、ヘトヘトになってしまうことも多いのだとか。「理想を言えば、一つの仕事が終わったとき、『明日もできる』と思えるぐらいの余力を残して終わりたいのですが、結局はエネルギーを使い果たしてしまうんです」
気持ちとは裏腹な行動。そこには「演じること」への本能的な欲求があるのかもしれない。「常に自分に何ができるかわからないという思いがあります。だからこそ、無心にやり続けるしかない。カメラを回し続ける人がいれば、わたしたちは演じ続けるだけ。そこで加減して“うまい感じ”にはしたくない。どれだけ夢中に、必死になれるか」
気持ち的にはあまりディープになり過ぎず、しかし実際の芝居は無心で夢中に。この心掛けが腑に落ちたのが、映画の舞台あいさつなどで見せる松のリラックスした姿。圧倒的な演技を見せる松だが、イベントなどで垣間見せる行動やトークは微笑ましい。昨年12月、声優として参加している『アナと雪の女王2』のイベントに登壇した松は、フォトセッションの際、壇上に設置された鐘を無邪気に鳴らす姿で会場を笑いに包んでいた。「すごくいい音がするので、これは聴いてもらわなければと思ったんです」と笑っていたが、そんなギャップも彼女の大きな魅力なのだろう。(取材・文:磯部正和)