森山未來、カザフスタン人役で「神業」を披露
俳優・ダンサーの森山未來が18日、都内で行われた日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』の初日舞台あいさつに出席した。カザフスタン人の設定で全編カザフ語のセリフを話し、乗馬も披露した森山は、オール・カザフスタン・ロケの撮影について「大自然の中で生かされている、人間の生活の原風景を見るような感覚になりました。その記憶が宝物のように残っている」と感慨深げに振り返った。
本作は、カザフスタンの雄大な自然を背景に、突然父を亡くした少年オルジャスとその母(サマル・イェスリャーモワ)、その前に現れた寡黙な男カイラート(森山)の触れ合いを描くヒューマンドラマ。映画『アイカ(原題)』で2018年カンヌ国際映画祭女優賞に輝いたサマルと森山がダブル主演を務め、橋本環奈主演の『シグナル100』(1月24日公開)も話題の竹葉リサ監督が、カザフスタン人監督エルラン・ヌルムハンベトフと共同でメガホンを取った。この日の舞台あいさつには、竹葉監督も登壇した。
作品を鑑賞したばかりの観客の前に現れた森山は「皆さんの“読後感”をぜひ知りたいところです。ストーリー自体も重要ですが、もっと大きな視点で物事を俯瞰して観ている作品だと僕は思っていて、僕も主役という感覚がないんです」とあいさつする。演じたカイラートについては「カザフスタンは200以上の民族が混ざり合い成立している。僕みたいな顔の人間がいても、違和感なく成立するんです」と紹介した。
さらに「寡黙な人物ですが、寡黙さの背景に何があるか、竹葉監督がサブスクリプトを作って説明してくれました。彼の生きた社会情勢に関係していて、完成作では編集でカットされたので、逆に、出来事がポンポンと起きていく神話みたいな展開になったと思います」と言葉を選びながら続けたが、竹葉監督がすぐに「ソ連が崩壊し、ロシアになる時期、社会が崩壊する中を生きた人の喪失感を念頭に」とさらりと説明。「あっ、それ言っちゃうんですね」と驚く森山に、会場は沸いた。
竹葉監督はそんな森山を「撮影のオリンピックがあったら金メダルが取れるくらいの離れ技を連発してくれた」と絶賛する。「現地スタッフや監督が、カザフ語の台本をバンバン変えていくんですが、森山さんは演技直前に新しいセリフを覚え、馬に乗って演技をし、また戻ってきてセリフを覚え直すという神業を披露してくれました」「スタントマンがいても、森山さんはリアリズムを追求したいと、点にしか映らない遠景シーンでも馬に乗っていた」という撮影エピソードを披露した。
日本式の乗馬と異なる「カザフ流」の馬のまたがり方を訓練する森山の姿を捉えたメイキング映像も公開されているが、大型の馬の背にひらりと飛び乗る姿は、森山の身体能力の高さをあらためて感じさせるものだ。
森山は「僕は何を言われようと、そのセリフを言うしかないので。乗馬に関しては、向こうの馬は気性が荒くて、1回走り出すと止まらないんです。全部(スタントなしで)トライしようとしたけど、無理な部分はありましたね」と残念そうな表情も。それでも初の海外主演作は思い出深いものになったようで、「現地スタッフはエネルギッシュで温かくて、今もすぐに向こうに戻りたいくらいチャーミングでした。この映画に関われて、光栄です。中央アジアの風を皆さん、共有してください」と観客に呼び掛けていた。(取材・文/岸田智)
映画『オルジャスの白い馬』は新宿シネマカリテほかにて公開中