圧巻タップダンスは9割俳優が実演!『スウィング・キッズ』撮影裏話
日本でも口コミで話題を呼び、スマッシュヒットを記録した映画『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョル監督がインタビューに応じ、最新作『スウィング・キッズ』(公開中)の華麗なタップダンスシーンの撮影や、主演D.O.の俳優としての魅力について語った。
ダンスはセリフの代わり
1951年、朝鮮戦争中の巨済島捕虜収容所を舞台に、収容所の対外的イメージアップのために寄せ集められたタップダンスチームのメンバーたちが、人種や思想を超えダンスで絆を深めていく姿を描き出す本作。カン・ヒョンチョル監督は「ダンスを通して感情表現するということに重点を置きました。ダンスがただの見どころで終わるのではなくて、しっかりと気持ちを伝えられるように撮りました」と本作ではセリフと同じくらいダンスが重要であったことを振り返る。
劇中では数々の名曲にのせて、華やかなタップダンスが繰り広げられる。尋常じゃないスピードで踏まれるステップをはじめ、数か月の練習だけでは到底習得できないのでは? と思うようなシーンもあるが、なんとタップダンスシーンの9割は俳優が実際に踊ったものだ。
「本当にみんな頑張ってこなしてくれました。かなり難易度が高く、物理的に人にはできないんじゃないかと思えるもの以外はやってくれましたし、難易度が高いものも途中まで踊ってもらって、あとは代役の方にやってもらって、それを織り交ぜながら撮っていきました。『これは人にはできないんじゃないかな?』と思うこともD.O.さんはやってくれました」
カン・ヒョンチョル監督にとって、ダンス映画への挑戦は今回が初めて。ダンス映画についていろいろと勉強したが、過去の作品は参考にしたくても適切なものがなかったという。「でも、ダンス映画はとても好きなのでいろいろと観てきました。理念の対立を描いた『ホワイトナイツ/白夜』(1985)という映画があるのですが、この映画の主人公を演じたグレゴリー・ハインズさんはタップダンサーなんです。映画でも一流のタップダンスを見せてくれるんですが、その弟子が(『スウィング・キッズ』に出演した)ジャレッド・グライムスさんなんです」
できることならD.O.とずっと一緒に映画を撮りたい
収容所きってのトラブルメイカーであるロ・ギス役で主演を務めたのは、韓国の大人気ボーイズグループ・EXOのメンバーとして活躍するD.O.だ。ドラマ「大丈夫、愛だ」や韓国で大ヒットした映画『神と共に』シリーズなど、俳優としても目覚ましい活躍を見せている彼は、カン・ヒョンチョル監督の目にどう映ったのだろうか?
「一緒にこれからも撮っていきたいと思える俳優さんです。できることなら、ずっと一緒に撮りたいと思っています。最初に会った時、自分が思い描いていたロ・ギスと(D.O.が)シンクロ率100%で、まるでシナリオから飛び出してきたような感じがしました。実際に一緒に映画を撮ってみたらとても人柄もいいですし、周りの人たちとも調和できます。情熱も素晴らしい演技力も持っています。とにかくすべてが立派だなと思える俳優さんでした。なので、次の作品もまた次の作品も、もし彼ができる役があれば一緒に撮りたいです」
D.O.への絶賛の言葉を惜しまない監督は、撮影現場で演出する際には彼に「早く終えて美味しいものを食べに行こう」と言葉をかけていたと笑みを見せる。「その時が一番演技が上手だったと思います(笑)。とにかく今回はキャラクターと彼のシンクロ率が高かったので、彼も台本を読んで自分なりに解釈して上手く演じてくれました。なので、こちらからは導線など本当に些細な最小限のことを伝えただけです」とD.O.への絶大な信頼をのぞかせた。
実はあの名曲も使いたかった!
観客の心を踊らせるもう一つの主人公は、ザ・ビートルズの「フリー・アズ・ア・バード」や、デヴィッド・ボウイの「モダン・ラブ」といった名曲の数々だ。1951年の朝鮮戦争中という時代設定に囚われない選曲だが、その基準となったのは「感情」だ。
「まずは監督の好きに、思い通りにしようと思い、時代的に合うかどうかということよりも感情を大切に考えて選曲しました。『この音楽はこの時代のものとは合わない』と思うような音楽も、ミュージカル的な要素だと解釈していただければと思います。ミュージカルというのは、言葉の代わりに音楽で、歌で気持ちを伝えるものですよね。なので、この時代の音楽ではないんだけれども、頭の中でこういうシーンのときにはこの音楽が鳴るんじゃないかと思ってみたら50年代にデヴィッド・ボウイが流れていた、というような感じで。あくまでもミュージカルの音楽の役割だと思っていただければよいかと思います」
ほとんどが西洋の楽曲であるなか、突如奏でられる韓国語の楽曲が新鮮な響きをもたらす。チョン・スラが歌う「歓喜」だ。実はこの選曲、当初はマイケル・ジャクソンさんの「ビート・イット」を想定していたという。
「『ビート・イット』のMVを見た時に、喧嘩をして仲良くなってまた踊るっていうくだりが面白いなと思いました。幼稚だなと思えるんですけど、その幼稚さが与えてくれる面白み、楽しさがあったんです。映画の中では捕虜と米軍の兵士が喧嘩をして、一緒にダンスを踊るというシーンに使いたかったんですが、『ビート・イット』はライセンスをとろうとするとあまりにも高すぎて、ちょっと手が出ませんでした。そこで、コンテを書いている時に自分のプレイリストを見てみたら、チョン・スラさんの『歓喜』が入っていたんです。歌詞を読んでみたら、幼稚さの極致といえるぐらい幼稚なものだったんですが、逆にそれが楽しいかなと思って使うことにしました」
次回作はまだシナリオを書いている段階で詳しくは明かせないものの、「平凡な人たちが特別な能力を持つことによって起きる物語」だそう。そちらも気になるところだが、その前に『スウィング・キッズ』で繰り出される華麗なダンスシーンの数々を見届けずにはいられない。(編集部・吉田唯)