『パラサイト』ポン・ジュノ監督、日本の巨匠がしたように 韓国映画の広がりに期待
第92回アカデミー賞
現地時間6日、第92回アカデミー賞で、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)にノミネートされた作品の監督を集めて行われるシンポジウム「オスカーウィーク:インターナショナル・フィーチャー・フィルム」が、米ロサンゼンスのビバリーヒルズにあるAMPAS(映画芸術科学アカデミー)本部で開催され、作品賞、監督賞などでもノミネートされている『パラサイト 半地下の家族』(韓国)のポン・ジュノ監督が思いを語った。
今年のシンポジウムには、ポン・ジュノ監督や、アントニオ・バンデラスが主演男優賞候補にもなっている『ペイン・アンド・グローリー』(スペイン)のペドロ・アルモドバルをはじめ、『レ・ミゼラブル』(フランス)、『ハニーランド 永遠の谷』(北マケドニア)、『コーパス・クリスティ(英題) / Corpus Christi』(ポーランド)など各国の監督が参加した。外国語映画賞は、本年度から国際長編映画賞に名称を変更。冒頭では、『エド・ウッド』『マン・オン・ザ・ムーン』などの脚本家で、司会を務めたラリー・カラゼウスキーがその理由を説明した。
ラリーによると、名称変更には、昨年『ROMA/ローマ』(2018)で受賞したアルフォンソ・キュアロン監督が「僕は子供の時、『ジョーズ』や『市民ケーン』のような外国映画を観るのが好きだった」というジョークが大きな影響を与えたという。つまり、”外国映画”の定義は国によって違う。さらに英語の外国(foreign)という言葉には、無関係や異質といった意味もあるが、映画は国や文化を越えて人々の心に響くユニバーサルなものなので、国際(international)という響きの方が適切だと、アカデミーは判断したようだ。
そんななか、今回の候補者で最も注目を浴びたのは、やはり『パラサイト』のポン・ジュノ監督だ。半地下住宅に暮らす貧困一家が、高台の大豪邸に住む家族の生活に寄生していく本作。「2014年ごろ『スノーピアサー』の仕上げをやっていった時、このアイデアを思いついた。『スノーピアサー』も実際は同じような題材の作品だし、僕はこういった社会や階級闘争のなかを生きていた。だから、映画のアイデアを選んだというより、この映画をやる呪いをかけられていたようなもの(笑)。選択の余地はなかったんだ」
本作の骨組みとなるアイデアは4年ほど頭の中にあり、実際の作業では、4か月半で脚本を書いた。意外な展開をたどる後半の見せ場のアイデアは、最後の3か月になって出てきたという。「普通は構成が決まっていないと不安になるけど、今回はなぜか不安になることはなかった。最後の展開がどうなるかわからずに(脚本を)書くというのは、僕にとっては異例のこと。『母なる証明』(2009)という作品では、最初から最後まで、映画がどうなるかイメージがはっきりしていたからね」
映画を撮る前に念入りな絵コンテを描くことで知られるジュノは、「自分の不安を取り除くためにしている」と語り「絵コンテなしに素晴らしい映画を作る卓越した映画作家たちがいるのは知っている。現場で役者に自由を与えるために自分がもっと柔軟になるべきなのもわかっている。ただ、これは個人的な問題ともいうべきで、僕はそうすることに取り憑かれているんだ。それに、最終的な映画は絵コンテとほとんど変わっていない。そのことを自分で誇るべきかどうかはわからないけど」とほほ笑んだ。
最後に監督が、本作が韓国の長編映画として初めて作品賞を含む6部門でノミネートされたことについて「クロサワ(黒澤明)や小津安二郎が日本映画を世界に広めたように、『パラサイト』が、皆さんが韓国映画を観るきっかけになることを期待しています」と語ると、会場から大きな拍手が沸き起こった。
昨年のカンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞して以来、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞など、数々の外国語映画賞を受賞してきた『パラサイト」の前評判は、おそらく昨年の『ROMA/ローマ』以上に高い。同部門はもちろん、外国映画として初の作品賞受賞となるか、ハリウッドの歴史が変わるか、大いに注目したい。(取材・文:吉川優子 / 細谷佳史)