とにかく現場好き!水橋研二の芝居の流儀
近年、名バイプレイヤーと呼ばれている演技力の高い実力派俳優が、主演を務めることが多くなってきた映像界。21日に公開された映画『カゾクデッサン』で主演を務める水橋研二もその一人だろう。本作以外にも故・大杉漣さんが出演していることでも話題になっている『モルエラニの霧の中』や、第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭で上映された『トリカゴ』でも主演を務める水橋が、自身の考える芝居の流儀について語った。
映画『33 1/3 r.p.m』で俳優デビューを果たして以来、黒沢清監督の『回路』では、死に魅了され自殺する青年、三池崇史監督の『天国から来た男たち』では、シャブ中の囚人など強烈なキャラクターを演じたかと思えば、新海誠監督のアニメ『秒速5センチメートル』では、ピュアな主人公の少年・遠野貴樹の声を瑞々しく表現するなど、さまざまなキャラクターを演じ、出演作品はVシネマを含めれば数百に上る。
最新作『カゾクデッサン』では、元ヤクザで過去の自分に後悔しながらも、なかなか前に進めない男・剛太を演じた。劇中では、過去の描写はあまり描かれていないが“いま”の人間関係のなかで、しっかりと剛太がどんな人生を送ってきたのかを立体的に表現している。
水橋は「現場では今井(文寛)監督が常に側にいてくれたので、しっかりコミュニケーションをとりながら撮影できましたが、あまり役について事前に決め込んでいくことはしませんでした」とあくまで撮影現場で感じたことを拠り所に役を作っていったという。
そこには映画というメディアに対する水橋の確固たる考え方があった。「映画のときはあまり考え過ぎずに臨むようにしています。僕らがやっていることはフィクションであり嘘の世界なのですが、いかに本当に感じてもらえるかが大切。その意味では変なことをせず、その場にいて、それを覗き見するようにこっそりと切り取ってもらえることが理想なのかなと。特に今回は主演だったので、いろいろなことをやり過ぎず、周囲の人の芝居をしっかり受けられるように意識をしていました」
そのために、できる限り長い時間現場にいたいという水橋。例えば本作では、バーのシーンが多数登場するが、そこで暮らす人間を切り取ってもらうためには、その場にいることに違和感があってはいけない。とにかく“そこにいる人”になることを心がけているというのだ。
一方でこうした水橋の考えがぶち壊されるような現場もある。それがドラマだ。「連続ドラマにレギュラーで出させていただけることもあるのですが、映画のようなイメージでいると、マネージャーさんから『それじゃダメです』と強烈なダメ出しをされるんです」と苦笑い。
「先ほど言ったように、映画では自然にそこにいる人を演じたいという思いがあるのですが、ドラマでそれをやると『ただそこにいるだけになります』と言われて、ドラマと映画には立ち位置の違いがあるんだなと知りました」と頭をかく。
そこからは少しずつ考え方が変わってきたそう。特に大きく影響を受けたのがドラマ「破裂」で共演した滝藤賢一だ。番手的には滝藤の方が上だったが、水橋に対して「俺はこう思うんだけれど、水橋さんはどう思う?」と意見を求めてくる姿が印象に残った。「昔はなんでも自分で考えて答えを出してきたのですが、滝藤さんの姿を見て、すごく面白いなと感じたんです。僕も真似するようになり、いまはすぐになにかあったら周囲に聞くようになりました。言葉が正しいかわかりませんが、人に甘えることができるようになりました」と笑う。
確かな演技力を誰もが認めるからこそ、出演作が続くと思われるが、自身は「僕は引き出しが少ないんです」と謙遜する。撮影現場では目標にする先輩たちから「少しでもなにかを盗めないか」との思いで、一挙手一投足に注目している。「具体的に挙げさせていただくなら、役所広司さん、本木雅弘さん、中井貴一さんは本当に憧れます」と羨望の眼差しを向ける。
とは言いつつも、水橋も主演作が続いている。「やっぱり気持ちいいですよね」と照れ笑いを浮かべると「でも主演で一番嬉しいのは、現場に長くいられることなんです。出番が少ないと、現場にいたくても『はい、終わりです』と言って帰されてしまう。とにかく現場が好きなので、少しでも長くいたいんですよ」とキラキラした目で語る姿がとても印象的だった。(取材・文・撮影:磯部正和)
映画『カゾクデッサン』は全国公開中