日本の報道に疑問を投げかける!NY発ドラマ「報道バズ」
近年、映画『新聞記者』、ドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』、東海テレビ制作『さよならテレビ』と報道の倫理を問う作品の公開が相次いでいる。その最中に発覚した黒川弘務前検事長と新聞記者の賭け麻雀問題にFNN(フジニュースネットワーク)と産経グループの世論調査不正問題。報道への信頼が揺らぐ中、ニューヨーク発で日本の報道の在り方に疑問を投げかけるドラマ「報道バズ」を制作した川出真理監督と脚本の近藤司がその問題点を語った。
ドラマ「報道バズ」はニューヨークを拠点に活動している日本人クリエーターチーム「デルック」によるインディペンデントドラマだ。日本のテレビ局で活躍していた専属アナウンサーの和田明日佳を筆頭としたweb報道サイト・報道バズのコンセプトは、“外から見た日本”。メディアのタブーにも斬り込んでいき、日本が報道の自由度ランキングで常に50位以下にランク付けされている要因の一つで、賭け麻雀問題で露わになった権力と報道の癒着疑惑につながる記者クラブ制度にも言及する。
さらにドラマでは安倍政権が多額の予算を投入したクールジャパン戦略も題材にした。ニューヨークでアイドルのコンサートが行われるのだが、観客も“さくら”なら取材するテレビ局のニュース番組の取材費もアイドルが所属する芸能事務所の“アゴ足”(食事代と交通費を負担)であることを告発し、これがのちに報道バズの存続にかかわる大ごとへと発展していく。ニュース番組の枠内にスポンサーの情報を扱う“是非ネタ”の存在があることは『さよならテレビ』内でも明かされていたが、ここまで赤裸々なのはまれだ。
近藤は「webの記事に関してアメリカでは連邦取引委員会(FTC)が管轄し、広告なら#Adや#SPを明示するといったガイドラインが存在します。またワシントンポストはAmazonの創業者でCEOのジェフ・ベゾスに買収されましたが、以降、同紙がAmazonのニュースを扱う際は必ず“ワシントンポストはAmazon経営者によって所有されています”と、透明性を保証するために注釈が付く。その辺りが雑誌やテレビは曖昧のまま来てしまったように感じます」と指摘する。
川出監督も「わたしはもともとコンサート業界にいたので雑誌やテレビで“このアイドルが今、大人気”のようなニュースは慣れてしまっています。視聴者の中には『そんなのわざわざドラマで描かなくとも知っているよ』と思うかもしれません。でも、その慣れていることが問題であるということに引っかかってもらえたら」と語る。
同作は2014年に企画を立ち上げ、足掛け6年かけて完成までこぎ着けた。テレビ局や代理店といったしがらみから離れたところで制作しようと、資金の一部をクラウドファンディングで募った。制作に時間を要することが予想できたため、扱う題材が古びれないよう配慮する必要があったという。
だが記者クラブ問題に加え、主人公の女子アナがSNSで誹謗中傷を受けて苦悩する展開もあり、昨今の女子プロレスラー・木村花さんの悲劇や、損害賠償を求めて漫画家などを提訴したジャーナリスト伊藤詩織さんの一件を連想せずにはいられない。さらにコロナ禍での持続化給付金の民間委託問題で露呈した経産省と電通の親密な関係は、共に設立に加わり、赤字が取り沙汰される海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)にもつながる問題であり、くしくもタイムリーなドラマとなった。
もっとも近藤は「作品を作るときに気をつけていたのは、一つ一つの案件を糾弾するというよりは、メディアと視聴者の双方が自分たちの問題でもあると意識し、議論に発展する働きかけになれば、ということです。記者クラブの弊害や芸能事務所との癒着は前々から指摘され、それが変わらず存在しているのは、視聴者や読者が自分たちの知る権利の問題でもあるという声を上げないからでもあると思います。その声が、業界内への大きなプレッシャーと応援にもつながると思うのです」と制作意図を語る。
川出監督と近藤ともども、日米の報道の違いで実感するのは、日本のメディアは中立性を保とうとするがゆえに当たり障りのない内容になっていることだという。「象徴的なのがトップの会見で、日本の首相会見は記者クラブの幹事社が各社の質問を事前に聴取するのが通例です。対してアメリカの大統領会見はアドリブです。各局とも大胆な政治色は打ち出していますが、忖度がない分、質疑応答に嘘を感じない」(近藤)。
川出監督も「就任当初のトランプ大統領の会見内容が日本のニュースでの翻訳だとかなり柔らかい表現になっていて驚きました。割と汚い言葉を使っているので、これではアメリカ人が感じているインパクトの大きさは伝わらないだろうと思いました」と言う。
やんわり伝えるから議論に発展しない。または「報道はどうせ真実を伝えないのだろう」という疑念が、人々に「何を言っても変わらない」という諦めを感じさせてしまっているのかもしれない。それでも最近、日本の変化も感じると言う川出監督。それは一人の女性の「#検察庁法改正案に抗議します」のつぶやきから端を発した検察庁法改正案反対運動であり、同じく女優・柴咲コウの発信から議論を呼んだ種子法改正問題で、そのうねりがニュースとなり、国会を動かし、法案が見送られた。近藤は「脚本執筆中の2015年夏に安全保障関連法案反対運動が起こり、国会前の大規模なデモがアメリカでも大きく報じられました。しかし強行採決されてしまった。単純な比較はできませんが、一人が始めた政治運動が報道や国会に大きな影響を与えるという、社会の変化を実感しています」と言う。
「報道バズ」は今後、アメリカとイギリスでの配信も準備中だという。それがシーズン2への実現につながればと考えているという。近藤は「賭け麻雀問題が、恐らく実態を知っていた新聞ではなく週刊文春が報道したことが象徴しているように、新聞やテレビが何を報じ、何を報道しないのか。そこをテーマに描きたい」と語る。
内容だけでなく、フィクションでありがちな「毎朝新聞」などではなく、朝日新聞や読売新聞が実名で登場する本作は、日本の社会派作品にも刺激を与えそうだ。(取材・文:中山治美)