上川隆也、コロナ禍で「遺留捜査」にも変化
2011年から続くテレビ朝日系ドラマ「遺留捜査」シリーズの型破りな刑事・糸村聡が当たり役となった俳優・上川隆也。新型コロナウイルス感染拡大の影響でドラマや映画の撮影が中止や延期になるなか、10作目となるスペシャルドラマの撮影が終了。「遺留捜査スペシャル」が8月9日(日)、放送される(夜9時~10時54分)。無事に新作を視聴者に届けられることに上川は「これは当たり前のことではないんです」と強調する。この言葉の真意とは……?
上川が、京都府警捜査一課特別捜査対策室の警部補・糸村聡を演じている「遺留捜査」。これまで連続ドラマ5作、スペシャルドラマ9作を放送。ファンにとっても毎年楽しみにしているシリーズだが、上川はコロナ禍において「個人的なことを申し上げますと、役者になってから初めて予定されていた舞台の公演が中止になるという経験をしました。本作も撮影を予定していましたが、無事に自粛期間を終えクラインクインできるのか、ちゃんとスケジュール通りに進むのか、誰にもわからないと思っていました」と不安があったという。
だからこそキャスト、スタッフら関係者が無事に撮影に臨めたことを「当たり前のことだと思ってはいけないと痛感しました。もし一人でも罹患者が出ていたらと思うと、空寒くなります」と危機感があった。
一方で、こういう時期だからこそ、糸村という人物に対して新たな面が加わったとも。「『遺留捜査』というのは“いま”が描かれた物語なんです。多分、特別捜査対策室の面々もコロナ禍の自粛を経て、捜査本部に来ている。つまり、そこを意識して演じることになりました。糸村はこれまで人との距離が近かったのですが、今回は、あまり人に顔を近づけなくなっています。そういう変化が見られると思います」と撮影を振り返る。
上川にとってライフワークとも言える「遺留捜査」シリーズ。その魅力について「大いなるマンネリズム」と表現する。真意について問うと「毎回物語の終盤に差し掛かると、糸村が遺留品にまつわるあらましを説明する“3分間”があります。そのシーンについて『今回は何分オーバー』など、事細かに感想を述べてくださる方がいます。比べるものではないかもしれませんが、例えば『寅さん』の“それを言っちゃお終えよ”や『水戸黄門』の印籠のような、マンネリズムの持つ魅力というものがあると思います。視聴者の方に盛り上がっていただけるのは、本当に幸せな環境だと思っています」と語る。
前述したが、上川は今年4月に予定していた主演舞台「新 陽だまりの樹」の全公演が中止になった。しかし、自粛期間について「個人的な感情だけを持って対応することは考えておりませんでした」と居住まいを正すと「自分の行動を制限することで、家族を含めて僕のライフエリアにいる人たちの守りになるなら、それはポジティブな行動として捉えていました。もちろんお芝居をしたいという気持ちは忌み嫌うべきものだと思っていません」と思いを述べる。
続けて「この自粛が終わり、撮影が開始されれば、また僕のやりたいことができると思っていました」と芝居へのエネルギーが満ち溢れる期間だったことを強調すると「今回のスペシャルは『遺留捜査』の変わらぬ魅力を届けられるという嬉しさがある一方、役というのは、役者の気分が大きく作用するのも事実で、もしかたら僕が意識していないところで、お芝居ができる楽しさがにじみ出ているかもしれません」と笑顔を見せる。
「もっと言うならば、糸村というものを大いなるマンネリのもとに演じることを大事にしている一方で、このあとに出会う役柄に、こうした僕の気分が大きく反映されていくかもしれません」と未来に思いを馳せていた。(取材・文:磯部正和)