『ダンケルク』は絶対にIMAXで観るべき映画!ノーランが目指したゴーグルなしのVR体験
新型コロナウイルスの影響で、全米の映画館が閉鎖されている状況でも、新作『TENET テネット』を、あくまでも映画館で人々にお披露目することにこだわっているクリストファー・ノーラン監督。そんな姿勢からも明らかなように、彼の作品は、やはりスクリーンで観ることにこそ価値を見いだすことができる。日本では2017年9月に劇場公開された『ダンケルク』の場合、IMAXでの体験は「必須」と言えるだろう。
第二次世界大戦でのフランス、ダンケルクの海岸での連合軍の撤退を描き、陸・海・空、それぞれの視点から戦場を疑似体験させる作品として、映画ファンから熱い支持を得た『ダンケルク』。公開当時から、リピーターも生まれたが、「何度か劇場に足を運んだが、IMAXの上映では、まったく違う没入体験になった」という感想が目立っていた。たしかにIMAXの場合、「スクリーンのサイズが大きいから」臨場感を得られる。しかし、『ダンケルク』をIMAXで観るべき理由はそれだけではない。
2008年の『ダークナイト』からIMAXカメラを使い始めたクリストファー・ノーラン監督。この『ダンケルク』では本編106分のうち、79分がIMAX65mmフィルムで撮影されたシーンであり(つまり約75%)、残りもすべて65mmで撮影している。アスペクト比(スクリーンサイズの横×縦の比率)は、1.43:1。多くの作品に比べて正方形に近いので、単純に、通常のスクリーンで上映すると、上下の部分がカットされてしまう。当然ながらノーラン監督にとっては、そのカットされてしまう部分も「見せる意図があった」わけで、その意図を汲む意味でも『ダンケルク』はIMAXで観る必要があるのだ。
ただし、IMAXならどこでもいいわけではなく、『ダンケルク』をフルサイズ(最大画角)で観られるIMAXシアターは現在、日本に2か所しかない。109シネマズ大阪エキスポシティと池袋のグランドシネマサンシャインだ。ここでは、1.43:1というノーランが意図したどおりのサイズで上映され、通常のスクリーンの、だいたい2倍の感覚で映像が迫ってくる体験を味わうことができる。しかし、この2か所まで足を伸ばすことができる人も限られるだろう。他のIMAXデジタルシアターも、通常のスクリーンよりカットされる部分が少なくなるため、ノーランの意図に近づくことはできる。
『ダンケルク』では、戦闘機の移動方向、爆撃で舞い上がる土埃、海と海岸の対比など、「上下の方向」を意識した構図、動きが目につく。これもIMAXカメラを使用したことによる結果であると考えられ、そうした縦方向への広がりを満喫するためにも、IMAXでの鑑賞を強く推奨する。
さらに没入感という点で重要なのが「音」である。『ダンケルク』はアカデミー賞で音響編集賞、録音賞を受賞したことから、より音響効果のすぐれたシアターであるIMAXで観れば万全だろう。遠くで鳴り響く爆撃音から、真横を行く銃弾の通過音、戦闘機スピットファイアの耳をつんざくような轟音、魚雷が船に命中するショッキングな鈍い音……。戦場でのあらゆる音が、その距離感も含めて生々しいレベルで観る者の肉体を刺激する。IMAXでの『ダンケルク』体験は、視覚以上に、むしろ聴覚でのインパクトに感動している人が多いくらいだ。
クリストファー・ノーラン監督が『ダンケルク』で目指したという「ゴーグルなしのVR(ヴァーチャル・リアリティ)」が、どこまで達成されたのかを、未体験ならばぜひIMAXで確認してほしい。新型コロナウイルスによって、自宅でストリーミングなどで映画を観る機会に慣れてしまったが特にこの『ダンケルク』は、IMAX鑑賞、映画館、そして映画が本来備えている魅力を再認識する意味で、最適ではないだろうか。(文:斉藤博昭)
映画『ダンケルク』は全国のIMAX、4D、ドルビーシネマで公開中