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コロナ禍で劇場公開した『銃 2020』とミニシアターへの思い

がんばれ!ミニシアター

武正晴監督
武正晴監督

 新型コロナウィルスの感染拡大に伴い発令された緊急事態宣言が解除され、現在全国の映画館が営業を再開している一方で、長期の休業が続いた経営規模の小さなミニシアターでは閉館せざるを得ない可能性もある危機が続いている。今だからこそ、ミニシアターの存在意義について、今の日本映画界を担う映画人たちに聞いてみた。

 Netflixのドラマ「全裸監督」が世界的な大ヒットとなっている武正晴監督が初めて映画館に行ったのは、小学生の頃。会社から帰ってきた映画好きの父親に、2本立ての映画館へ連れて行かれたのを覚えている。地元・名古屋のどこにでもあった、駅前の映画館。小学生の頃からテレビの洋画劇場を観ているうちに好きになっていた自分がいた。父と一緒に観た映画の数々は、その全てが今の武監督に大きな影響を与えているのだと言う。「僕の親父は、子供の頃に戦争をやっていた。6年間外国の映画を観てはいけない時代を生きたオヤジだったからこそ。父親もその世代の若者たちは映画に救われた人が多かった。子供の頃にどんな映画を観たかはすごく大きい。幼い頃から映画鑑賞を文化的にするってすごく大事で、親が映画を魅せることが大切だと思います。でも僕が思う1番いい方法は、学校などが映画館で映画を観ることを子供達に学問として体験させることが大事だと思う。受験勉強ばかりが勉強じゃない。映画から学べることは本当にたくさんあると思います」

 武監督には「映画の世界に入ってから観た映画は信用していない」と言う持論がある。それは仕事として観るようになってしまうから。どの作品も、どうしても作り手として観てしまう視点から逃れることがなかなかできないのだと言う。だからこそ、映画を作るときは、映画を観る側だった頃の、10代の頃の自分を横に置いて映画を作っているのだそう。「子供時代に印象に残っている作品はたくさんあるんです。例えば、小学校3年生くらいの頃に観た『がんばれ!ベアーズ』『地獄の黙示録』は6年生くらいの頃に観たのを覚えています。特に『地獄の黙示録』は小学生に観せちゃダメ!  なんて声が聞こえて来そうですが、映画鑑賞と言うのは年齢じゃなくて習慣です。僕にとって、この映画は強烈な思い出で、ワルキューレが鳴った瞬間にすごく鳥肌が立ったのを覚えています。怯えた兵士の顔も、興奮した感じも全てが忘れられなかった。だからこういうことが観客に届くということなんだとその時に改めて気づくことができた。その記憶を元に、映画を作るときは、あの頃の自分に届くように作っていますね」と振り返った。

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 監督になってからは、ミニシアターに行くことが増えたという。2014年、安藤サクラ主演で作ったインディペンデント映画『百円の恋』は、多くのミニシアターで上映されて映画ファンの心を掴み、その年の多くの映画賞に輝いた。「すでにたくさんの上映劇場が決まっているようなメジャー作品ではないので、インディペンデントな映画館は以前のような自力でコツコツと掴んで行かなきゃいけない。「『百円の恋』もまさにミニシアターさんがミニシアターに繋げていってくれた作品です。ミニシアターの番組編成の方は、必ず映画を観てくれる。数年前の映画でも、今も地方の劇場で、いまだに上映されている作品なのです。いろんなミニシアターを訪れているのですが、スタッフさんたちも映画愛に溢れているからプログラムがすごくいいんです。近所でまず間違いないという信頼のある劇場をまずは見つけて欲しいですね」

 現在、武監督がメガホンを取った映画『銃2020』が全国の劇場で上映中だ。撮影中は、必ず肝になるシーンが必ずあると監督は断言する。それは、かつて子供の頃に観た『地獄の黙示録』のワルキューレがかかるシーンのよう。「台本を読んだ時に、みんなが嫌がるシーンではあるんです。私たちが観てきた映画はそういう無茶をしてきた。今回も、オープンカフェテラスで発砲をするシーンがあるんですが、やっぱりスタッフはみんな嫌がりましたね。許可を取るのも大変なシーンですから。それでも葛藤を爆発させることが大事なんです」

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 まさにコロナ禍での映画公開となってしまった本作。映画館も座席数が空席を挟みながらのチケット販売となり、興行収入も難しい。「映画を作っている時はこういうことが起きるなんて思わずに、上映の発表をしますからね。『銃 2020』もこれからというタイミングで緊急事態宣言が出たんです。不安になることもありましたし、今でも大変な中で上映を続けていますが、なかなかいい試練を与えてもらいました」

 現在、武監督は自身の作品を撮影中だが、厳しい条件下だからこそ、スタッフたちの負けてたまるかという気迫が伝わってきているという。「きっと皆、自粛期間中にいろんなことを見つめ直したからこそ気が乗っているんだと思います。朝イチから消毒してスタッフたちは本当に大変だと思います。感染防止のために難しくはなると思いますが、みんなの負けん気でそれを乗り越えていける気がしていますね」と意気込んだ。

 これから映画文化を守っていくには、かつて武監督に映画を教えた自身の父親のように「違う世代の人たちが、映画の面白さを次世代にどう伝えていくかが大切」と訴える。「もしも映画が好きならば、先人たちが築き上げてきた、150年以上の文化を伝えていかなければいけない。やっぱりかっこいい大人が、映画ってこんなに面白いんだぜってどう伝えられるかはすごく大事だと思います」(取材・文:森田真帆)

映画『銃 2020』は全国にて上映中

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